- 指針が押さえる場所として示すのは、鼻の下 3 分の 1、つまり小鼻と呼ばれる柔らかい部分です。
- 英国で 25 年前の調査をやり直した Dunne(2025)の研究は、鼻血の応急手当てが身についていない大人が多いことを示しています。
- 鼻血を冷やす手当てについては、国際蘇生連絡委員会の応急手当ての部会のために文献を集めた Berry(2021)のレビューがあります。
- 鼻を打ったあとに見るのは、出血の量より形と通りです。
組手で鼻血が出た子どもの止め方|鼻のけがと稽古の研究
「鼻の下 3 分の 1 を、しっかり 5 分以上押さえ続ける」。米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会の診療指針で、Tunkel(2020)が鼻血の手当ての中心に置いているのはこの一行です。試合会場の畳の脇で、組手のあとに鼻を押さえた子どもが戻ってきて、周りの大人が「上を向いて」と声をかける場面は、いまも見かけます。
上を向くと、血は外へ出ずに喉の奥へ回ります。組手で鼻に当たったとき、どこをどう押さえればよいのか、どんな様子なら鼻の骨のけがを疑って受診するのか、迷うところだと思います。子どもの鼻は大人より小さく、押さえる面積も狭いので、指の当て方で効果が変わります。上を向かせずに小鼻をつまんで押さえ、形の変化や止まらない様子があれば耳鼻科か形成外科を受診する、という順で動くと判断しやすいです。
鼻血の止め方の手順と、試合会場や道場で稽古を止める目安を、指針と研究から整理します。小鼻を押さえるという基本から、形の変化に気づいたときの動きまで、順にたどります。読み終えたら、押さえる場所と時間を家族で一度確かめてみてください。
鼻血の止め方で、最初に確かめること
指針が押さえる場所として示すのは、鼻の下 3 分の 1、つまり小鼻と呼ばれる柔らかい部分です。鼻筋の上、硬い骨のあたりを押さえても、出血している血管を直接押さえたことにはなりません。小鼻の左右をつまむように持ち、鼻の中の仕切りごと挟む形にすると、指の力が届きやすくなります。押さえるのは本人でも、保護者や周りの大人が手を添えてもよいと指針は書いています。
押さえ始めたら、5 分以上そのまま数えます。数秒おきに手を離して「まだ出ている」と確かめると、そこでできかけた血の塊が崩れ、振り出しに戻ってしまいます。台所のタイマーでもスマートフォンの時計でもよいので、5 分を計ってから離すと、押さえ方にばらつきが出ません。指針の対象は 3 歳以上で、3 歳未満の子の鼻血は自己判断で済ませず、まず受診を考えるほうが安全です。
鼻血はめったなことではなく、米国では人口の少なくとも 60% が一生のうちに経験し、そのうち約 6% が医療機関を受診するという数字が指針に示されています。多くの鼻血はけがではなく、乾燥や鼻を触る癖などからも起きます。だからこそ、組手のあとの鼻血かどうかで手当てを変えるのではなく、まず圧迫という基本を同じように行うことが出発点になります。この指針は空手の組手だけを対象にしたものではありませんが、押さえる場所と時間については、道場でもそのまま使える具体的な指示です。
正しい手当てを知らない大人は、いまも多い
英国で 25 年前の調査をやり直した Dunne(2025)の研究は、鼻血の応急手当てが身についていない大人が多いことを示しています。一般の人 129 人のうち 83% が正しい手当てをしておらず、血液を固まりにくくする薬を飲んでいる人でも 77% がそうでした。救急の職員 116 人でも 64% が正しい方法を使えておらず、実際に運ばれた例の 56% では適切な応急手当てがされていませんでした。
この研究は貼り紙を見て答えた人の自己申告で、対象は英国の大人です。数字は鼻血の手当ての正解率ではなく、その場にいた人が正しい方法を知っていたかを見たものです。それでも、押さえる場所と時間という基本は、道場でも家庭でも同じように使えます。
大人が間違えやすいのは、鼻の付け根の硬いところをつまんでしまうことです。ここを押しても出血している場所から離れていて、指が滑ってすぐに離れてしまいます。鏡を見ながら、小鼻の柔らかい部分を親指と人差し指でつまむ形を、一度練習しておくとよいです。
道場や家庭でも、大人が同じ間違いをする可能性は十分にあります。間違いとして多いのは、押さえる位置が高いこと、押さえる時間が短いこと、そして上を向かせることです。上を向くと血は喉の奥へ流れ、飲み込んだ血で気持ちが悪くなったり吐いたりすることがあります。まず圧迫、次に確認。この順番を覚えておけば、迷ったときに戻る場所があります。
冷やす・詰めるは、押さえることの代わりになるか
鼻血を冷やす手当てについては、国際蘇生連絡委員会の応急手当ての部会のために文献を集めた Berry(2021)のレビューがあります。集まったのは論文 21 本と灰色文献 11 本で、冷やす方法の効果を比べた前向きの無作為化試験は 1 本も見つかりませんでした。勧告は専門家の意見や、健康な人での間接的な測定に基づいています。冷やすことは、押さえることの代わりにはなりません。
手当てごとに、指針や研究から言えることと、根拠の強さを並べると次のようになります。同じ鼻血の手当てでも、試験で確かめられているものと、専門家の意見にとどまるものがあります。表の中で「弱い」と書いた行は、効果が無いという意味ではなく、比べた試験が無いという意味です。
| 手当て | 指針や研究で言えること | 根拠の強さ |
|---|---|---|
| 小鼻を押さえる | 鼻の下 3 分の 1 を 5 分以上押さえ続ける | 診療指針の中心。けがの鼻血だけを比べた試験ではない |
| 前かがみになる | 血を外へ出し、喉に回りにくくする姿勢として示される | 姿勢だけを比べた試験は見当たらない |
| 上を向く | 血が喉の奥へ回るため、勧めない | 専門家の意見 |
| 冷やす | 押さえることの代わりにはならない。効果を比べた試験が無い | 弱い |
| 鼻に詰める | 詰めても、まず圧迫を続ける。長さや種類を比べた試験は無い | 弱い |
前かがみになるのは、血を喉ではなく外へ流すためです。顔を上げると見た目は落ち着いて見えますが、血の行き先が変わるだけで、出血そのものは止まっていません。押さえる場所と姿勢をそろえてから、冷やすかどうかを考えます。
鼻にティッシュを詰める方法は、押さえたあとの補助としては使われますが、詰めたまま押さえるのをやめると、出血が続いていても気づきにくくなります。詰め物の長さや種類を比べた試験は、ここで集めた文献の中にはありませんでした。詰めるかどうかより、小鼻を押さえ続けられているかを見ておくほうが役に立ちます。
鼻の骨が折れているかもしれないとき
鼻を打ったあとに見るのは、出血の量より形と通りです。鼻が曲がった、形が変わった、片側がつまって息ができない、押すと骨の一点だけが強く痛む、のどれかがあれば、耳鼻科か形成外科で診てもらうほうが安心です。腫れている間は形の評価がしにくいので、腫れが引いてから考えようと待つより、早めに一度見てもらうほうが判断が早くなります。見た目に変化がなくても、押した痛みが強いままなら同じように相談します。
米国の小児耳鼻科に鼻の変形で紹介された 100 例を振り返った Liu(2015)では、けがの原因として最も多かったのがスポーツで 28% でした。この 100 例のうち 22% は、受傷から 14 日以内に整復が行われています。整復のあとに親と医師の両方が左右対称に満足したのは 33% でした。この数字は整復の成功率ではなく満足度ですが、形の変化を早めに相談する理由にはなります。
日本の施設で急性の鼻骨骨折の手術を受けた 423 人を、12 歳以下と 13 歳以上に分けて比べた Yabe(2012)の研究もあります。子どもの鼻骨骨折は 3〜5 日以内に整復を、と言われることがありますが、この研究はその根拠が証明されているわけではないと述べています。結論としては、子どもの治療を大人と区別する必要はないという立場です。何日以内に必ず処置、と決めつけず、腫れの状態と形を見て、時期は医師と決めるのが実際的です。
Liu(2015)は、鼻の変形の原因が年齢によって変わるとも書いています。何歳で、どこで、何に当たったかを伝えられると、診察の助けになります。組手の最中なら、相手のどの技が当たったか、防具を着けていたかも添えます。
子どもと大人で、見るべき点はどこが違うか
診療指針の対象は 3 歳以上です。3 歳未満の子は指針の想定の外にあり、鼻血の原因も手当ての反応も大人の判断では測りにくいので、受診を先に考えます。子どもは自分で 5 分間押さえ続けるのが難しく、指の力も足りません。保護者や周りの大人が手を添えてよいと指針が書いているのは、このためです。
子どもは押さえている間に血を飲み込みやすく、終わったあとに気持ちが悪くなることがあります。座らせて、少し前かがみにし、飲み込む量を減らす姿勢をとらせます。鼻血が止まったあとも、ふらつきや顔色の悪さがないか、しばらく見ておくと安心です。
同じ側の鼻血を何度も繰り返す、かさぶたが取れるたびに出る、少しずつ量が増えている、という場合は、組手の衝撃とは別の理由が隠れていることがあります。この場合は耳鼻科で鼻の中を見てもらうのが次の一歩です。大人でも、血液を固まりにくくする薬を飲んでいる人は止まりにくいことがあるので、長引くなら早めに受診します。鼻の中は狭く、自分では見えない場所なので、思い込みで片づけないほうが安全です。
家庭で見るときは、出血の量そのものより、顔色、ふらつき、脈の速さ、汗のかき方を見ます。顔色が白っぽい、冷や汗が出る、座っていられない、という様子があれば、鼻血が止まったかどうかに関係なく受診を考えます。子どもは自分では大丈夫と言いやすいので、様子を聞くより、顔色と姿勢を見たほうが確かです。
試合会場で、周りができる見守り
試合会場では、止血より先に試合を止める判断が要ります。鼻に当たって血が出ていることに気づいたら、審判に申し出て時計を止めてもらい、畳の外で座らせます。立ったまま押さえると、気分が悪くなったときに倒れる危険があるためです。救護の係がいる会場なら、その場所へ一緒に行きます。
持ち物として役に立つのは、ティッシュ、時間を計れる時計、座れる椅子、飲み物です。押さえる場所と 5 分という時間を、付き添う大人どうしで共有しておくと、声がけがぶれません。止血できたかどうかは、手を離してしばらく見て、すぐにまた出てこないことで確かめます。濡れたティッシュはビニール袋に入れて持ち帰ると、周りを汚さずに済みます。
付き添う大人が複数いるなら、押さえる人と、審判や救護の係に伝える人を分けると動きが止まりません。押さえる役は途中で代わらず、5 分を計り切るほうが確実です。止血したあとは、いつ、どちらの鼻から、どれくらい出たかを短く記録しておくと、受診したときに説明しやすくなります。
稽古や試合に戻るかどうかは、止血できたことに加えて、ふらつきや吐き気がない、頭を打っていない、鼻の形が変わっていない、の 3 つを確かめてから決めます。押さえても止まらない、しばらくして繰り返す、ぼんやりする・吐き気がある、透明でさらさらした液が鼻から出る、のどれかがあれば、その日は稽古をやめて受診します。家庭でできるのはここまでで、鼻の形を戻す処置や薬の使い方を自分で試す必要はありません。迷ったときは、会場の救護の係か、近くの耳鼻科に電話で相談するだけでも判断が早くなります。
よくある質問
鼻にティッシュを詰めておけば、押さえなくても止まりますか。
詰め物は押さえることの代わりにはなりません。血で濡れたティッシュは抜けにくくなり、取り出すときに鼻の中を傷つけることがあります。まず小鼻をつまんで 5 分以上押さえ、それでも出るときは詰め物より受診を優先します。詰め物の長さや種類を比べた試験は、ここで集めた文献の中にはありませんでした。
5 分押しても止まりません。もう一度押し直してよいですか。
押さえる位置が高すぎないか、小鼻をつまめているかを確かめて、もう一度 5 分以上押さえます。押し直しても止まらない、出血量が多い、顔色が悪い、ふらつく、というときは、そのまま耳鼻科か救急へ連絡します。何度も押し直して様子を見続けるより、止まらない時点で受診の判断に切り替えたほうが安全です。
鼻血が止まったら、その日の組手に戻ってもよいですか。
止血できた、ふらつきや吐き気がない、頭を打っていない、鼻の形が変わっていない、の 4 つを確かめてから、指導者や審判に伝えて戻ります。試合の途中なら、救護の係の判断を優先します。少しでも迷うなら、その日は組手を休んで、翌日の様子を見るほうが無理がありません。
試合の前に、家族で何を用意しておけばよいですか。
鼻血に対応する際に時間を計れるよう、時計を用意しておきます。会場に着いたら、座って対応できる場所と救護所の場所を確かめておきます。家族で押さえる場所と時間を確かめ、会場では救護所への行き方を把握しておくと、対応の順序が定まります。
この記事の限界
適用範囲を先に書くと、この記事が引いた指針と研究は、いずれも空手の組手だけを対象にしたものではありません。Tunkel(2020)は 3 歳以上を対象にした米国の診療指針で、想定の中心はけが以外の鼻血です。Liu(2015)は 3 年間に小児耳鼻科へ紹介された 100 例、Yabe(2012)は手術を受けた 423 人の記録で、どちらも受診した子だけを見ています。
日本の子どもの空手の組手で鼻血がどれくらい起きるかを数えた研究は、ここで集めた文献には含まれておらず、この記事は診断や治療の助言ではなく、応急の対応と受診の判断までを扱うものです。押さえても止まらない出血や鼻の形の変化を見逃さず、頭を打った様子や透明な液が出る場合も稽古を止めて医療機関へつなぐことが要点です。
参考文献
- Tunkel DE ほか. Clinical Practice Guideline: Nosebleed (Epistaxis). Otolaryngol Head Neck Surg. 2020;162(1_suppl):S1-S38.
- Dunne H ほか. Exploring knowledge of first aid in epistaxis-25 years on. PLoS One. 2025;20(1):e0315092.
- Berry D ほか. Use of Cryotherapy for Managing Epistaxis in the First Aid Setting: A Scoping Review. Cureus. 2021;13(5):e14832.
- Liu C ほか. Nasal fractures in children and adolescents: Mechanisms of injury and efficacy of closed reduction. Int J Pediatr Otorhinolaryngol. 2015;79(12):2238-2242.
- Yabe T ほか. Comparison of pediatric and adult nasal fractures. J Craniofac Surg. 2012;23(5):1364-1366.
技の名前を調べた次は、組手の痛みと礼儀を稽古場で確かめる
- 向く人: 技の名前や由来を知ったうえで、型と組手で実際に体を動かしたい大人
- 向く人: けがの防ぎ方と礼儀の教え方を見てから、子どもに空手を習わせたい保護者
- 向かない人: 相手を倒す技だけを早く覚えたい人
- 向かない人: 医師から打撃や接触のある運動を止められている人
このサイトはワールド極真会空手連盟 東京支部が制作しています。稽古場はオンザショア立川店(立川駅から徒歩1分・溶岩プレートの床のスタジオ)です。
よくある質問
鼻にティッシュを詰めておけば、押さえなくても止まりますか。
詰め物は押さえることの代わりにはなりません。血で濡れたティッシュは抜けにくくなり、取り出すときに鼻の中を傷つけることがあります。まず小鼻をつまんで 5 分以上押さえ、それでも出るときは詰め物より受診を優先します。詰め物の長さや種類を比べた試験は、ここで集めた文献の中にはありませんでした。
5 分押しても止まりません。もう一度押し直してよいですか。
押さえる位置が高すぎないか、小鼻をつまめているかを確かめて、もう一度 5 分以上押さえます。押し直しても止まらない、出血量が多い、顔色が悪い、ふらつく、というときは、そのまま耳鼻科か救急へ連絡します。何度も押し直して様子を見続けるより、止まらない時点で受診の判断に切り替えたほうが安全です。
鼻血が止まったら、その日の組手に戻ってもよいですか。
止血できた、ふらつきや吐き気がない、頭を打っていない、鼻の形が変わっていない、の 4 つを確かめてから、指導者や審判に伝えて戻ります。試合の途中なら、救護の係の判断を優先します。少しでも迷うなら、その日は組手を休んで、翌日の様子を見るほうが無理がありません。
試合の前に、家族で何を用意しておけばよいですか。
鼻血に対応する際に時間を計れるよう、時計を用意しておきます。会場に着いたら、座って対応できる場所と救護所の場所を確かめておきます。家族で押さえる場所と時間を確かめ、会場では救護所への行き方を把握しておくと、対応の順序が定まります。