- Kimm(2002)は、米国の女子 2,379 人を、9〜10 歳から 18〜19 歳まで 10 年間追いました。
- Cairney(2014)は、カナダの子ども 2,100 人を 11〜14 歳まで追い、組織的な運動と自由な遊びへの参加を調べました。
- Arumi-Prat(2025)は、スペインの中等教育の生徒 180 人を、大学に入るまで 3 年間追跡しました。
- Bélanger(2009)は、カナダで調査開始時に活発だった生徒 1,028 人を 5 年間追いました。
中学生になると稽古をやめる女子|思春期の運動離れと武道の研究
稽古の帰り道、道着の入った袋を持つ娘が「中学生になったら、もう通わなくてもいいかな」と口にすることがあるかもしれません。小学生のころは楽しそうだっただけに、年齢とともによく起こる変化なのか、続けるために何を変えられるのかと、保護者は考えるでしょう。思春期に運動量が減る傾向は報告されていますが、中学生の女子だけの変化と決めず、本人が挙げる妨げと暮らし全体の運動を分けて確かめることが出発点になります。
武道・空手の継続や退会を女子について直接調べた研究は、今回取り上げる文献には含まれていません。ここで手掛かりにするのは、子どもを追跡した運動・スポーツ全般の研究であり、稽古をやめたがる娘の割合を示すものではありません。運動が減る時期、スポーツに参加する割合、通っていても変わる運動量を順に見ていきます。
継続と運動量は別です。退会するかどうかだけに目を向けると、通っている日の動きと、それ以外の日の変化を見落とすこともあります。研究の数字を娘の将来の予測に使うより、何を聞き、何を見直すかを選ぶ材料として読むほうが、家庭での話し合いに生かせます。
女子の運動離れが始まる年齢の研究
Kimm(2002)は、米国の女子 2,379 人を、9〜10 歳から 18〜19 歳まで 10 年間追いました。同じ人を時間を置いて調べる縦断研究で、女子の余暇の運動が成長とともにどう変わるかを見たものです。対象は黒人の女子 1,213 人と白人の女子 1,166 人で、質問票に答えてもらい、運動の量を点数にして比較しました。
Kimm(2002)では、余暇の運動の点数の中央値が、黒人の女子で 100%、白人の女子で 64% 下がりました。中央値は、値を順に並べたときの中央の値を指します。これは個々の女子が同じ割合で活動を減らしたという意味でも、全員が運動をやめたという意味でもなく、集団の分布の中央が大きく下がったという結果です。稽古への出席や退会を数えた数字とは区別する必要があります。
同じ Kimm(2002)の調査では、身長に対する体重の指標である BMI の増加、妊娠、喫煙なども運動の低下と関係していました。年齢だけで説明するのではなく、身体や生活の変化も合わせて調べていた点が特徴です。これらは米国で調査された女子集団における関連であり、娘が通いたくない理由を推測するためのチェック項目に置き換える必要はありません。
この研究が捉えたのは、小学校後半から成人に近づくまでの長い変化です。中学入学の前後だけを比べた研究ではなく、男子との比較もしていません。女子の思春期を通じて運動が大きく減る例があることを受け止めつつ、いつ減り始めるのかという問いには、もっと早い年齢から男女を追った研究を重ねて考えます。
体の成熟で比べる研究と、幼少期から測る研究
Cairney(2014)は、カナダの子ども 2,100 人を 11〜14 歳まで追い、組織的な運動と自由な遊びへの参加を調べました。運動への参加は女子のほうが男子より急に減っていましたが、身長の伸びる時期を使って身体の成熟をそろえると、運動の種類によっては男女差が小さくなりました。誕生日から数えた年齢と、身体の成長がどこまで進んでいるかを区別した調査です。
Cairney(2014)の結果は、同じ学年だから身体の変化も同じ段階だと扱わずに、活動の種類も見ていく必要を示しています。成熟との関係の出方は一様ではなく、組織的な運動と生活の中の活動をまとめると違いを見失います。女子が通うのをやめたくなる理由を、成長の早さだけで説明する結論にはなっていません。
一方、Farooq(2018)は英国で 7・9・12・15 歳の運動量を調べ、複数の時点でデータのある 545 人を分析しました。身体の動きを記録する加速度計を用いたところ、運動量の低下は 7 歳から見られました。思春期になって急に低下が始まる証拠も、思春期の低下が女子で男子より大きいという証拠もありませんでした。
研究によって答えが違う点は、読み飛ばせません。Cairney(2014)は本人が答えた運動参加を扱い、Farooq(2018)は機器で身体の動きを測り、より幼い時期も含めています。何歳から観察するか、活動をどう測るかで、見える変化が異なります。中学入学を境目と決めて話すより、小学生のころからの遊びや移動も振り返るほうが、娘の変化を幅広く捉えられそうです。
時間や宿題の妨げを、本人の言葉で確かめる
Arumi-Prat(2025)は、スペインの中等教育の生徒 180 人を、大学に入るまで 3 年間追跡しました。高校でのスポーツ参加は女子 45%、男子 68% で、大学ではそれぞれ 12%、10% でした。進学に伴う変化を追った研究で、運動に参加する割合が低下したのは女子だけではありません。
Arumi-Prat(2025)の調査では、時間がない、宿題が多いなど、運動の妨げを挙げる生徒は女子に多く見られました。参加する気持ちだけを尋ねるのではなく、活動に使える時間や、ほかの予定とぶつかる事情を尋ねた点が参考になります。ただし、対象は思春期の前半より年長で、地域も限られ、回答は自己申告でした。
家庭で生かすなら、「時間がない」という言葉を、そのまま理由の終点にせず、何と何が重なっているのかを聞く形が考えられます。宿題を終える時刻と稽古への出発がぶつかるのか、帰宅してからの予定が詰まるのかで、相談したい内容は変わるかもしれません。これは上の研究で効果が確かめられた手順ではなく、本人が挙げた妨げを整理するための聞き方です。
月経や体型への悩みを、大人が先回りして理由に決める必要はありません。本人が身体の不調を挙げたなら、その言葉を時間の都合とは別に受け止め、稽古を続けるために我慢させる方向には進めないようにします。年齢や性別から理由を埋めず、本人の説明を記録の中心に置きます。
習い事への参加と、運動量の変化を分ける
Bélanger(2009)は、カナダで調査開始時に活発だった生徒 1,028 人を 5 年間追いました。対象は、開始時の第 7 学年に、中くらいから強い運動を週平均 5 回以上していると答えた生徒です。学校や地域での組織的な活動への参加と、その後の運動量を、3 か月ごとの回答で調べました。
Bélanger(2009)では、組織的な活動に参加していた生徒の運動量は、参加していなかった生徒より多い状態でした。それでも運動量は両方の集団で年 8% ずつ下がっていました。参加者の活動量が多いことと、年齢に伴う低下を抑えることは、同時に成立するとは限らないのです。通い続ける価値を否定する結果ではなく、所属しているだけで日常の運動量まで保たれるわけではないという結果です。
稽古に通う娘について考えるときも、出席が続いているかと、日々どれほど身体を動かしているかを分けて見られます。稽古以外の遊びが減っていたり、動く日が偏っていたりすることもあるかもしれません。反対に、稽古を休む日に別の運動を選ぶこともあるでしょう。出席欄だけでは、こうした活動の入れ替わりが見えにくくなります。
追跡研究を並べると、同じ「運動が減った」という表現でも、測った中身に幅があります。次の表では、対象と測り方をそろえて見渡せるように整理しています。
| 研究(著者 年) | 国と対象 | 人数 | 追跡の期間と測り方 | わかったこと |
|---|---|---|---|---|
| Kimm(2002) | 米国の女子 | 2,379 人 | 10 年間、質問票による余暇の運動の点数 | 中央値が大きく低下し、集団によって低下幅が異なる |
| Cairney(2014) | カナダの子ども | 2,100 人 | 11〜14 歳、運動参加の自己申告と身体計測 | 女子で低下が急だが、成熟をそろえると種類によって差が縮小 |
| Farooq(2018) | 英国の子ども | 545 人 | 7・9・12・15 歳、加速度計 | 低下は幼少期から見られ、思春期の女子だけに強い低下は見られない |
| Arumi-Prat(2025) | スペインの中等教育から大学に進む生徒 | 180 人 | 3 年間、参加と妨げの自己申告 | 男女で参加が減り、妨げの訴えは女子に多い |
| Bélanger(2009) | カナダの開始時に活発だった生徒 | 1,028 人 | 5 年間、3 か月ごとの自己申告 | 組織的活動への参加者も運動量が低下 |
学校での取り組みの効果は小さい
Owen(2017)は、思春期の女子の運動を増やす学校での取り組みを集め、17 研究をメタ分析しました。メタ分析とは、複数の研究の結果をまとめて計算する方法です。統合した効果は小さく、効果量という変化の大きさを表す共通の指標で 0.37 でした。
Owen(2017)では、ほかから大きく離れた値を示す外れ値の研究を除くと、16 研究の効果量は 0.07 となり、ごく小さい効果になりました。この値は運動時間が何分増えたかでも、何割の女子が運動を続けたかでもありません。異なる測り方をした結果を共通の尺度でまとめたもので、目立つ結果を含めるかどうかで全体像が変わったことが重要です。
複数の要素を組み合わせた取り組みや、理論に基づいて組み立てた取り組みには、わずかな効果が見られました。それでも Owen(2017)は、学校を通して女子の運動行動を変えることの難しさを結論に挙げています。研究ごとの質にもばらつきがあり、何か取り組めば大きく改善するという期待は、この結果と釣り合いません。
この小ささを、娘の努力不足や家庭の働きかけの不足に結びつけないことが大切です。学校全体で実施した取り組みの平均的な結果は、ある家庭の会話の良し悪しを採点する材料ではありません。また、運動を増やした量だけで、本人の負担まで評価したことにはなりません。調整を試す場合も、続いたかどうかに加え、本人が挙げた困り事がどう変わったかを聞くほうが、目的に沿った振り返りになります。
続ける条件を、暮らしの予定と並べて話す
研究を家庭の相談に移すときは、「通い続けてほしい」という願いと、「動く機会を保ちたい」という目的を分けておくと話を進めやすいかもしれません。Bélanger(2009)が示したように、組織的な活動に参加することと運動量の低下を防ぐことは別の問題です。稽古への出席だけを目標に固定せず、本人が残したい活動も同じ紙に書いてみることを勧めます。
予定を書く場合は、本人が妨げとして挙げた時間帯から始めます。稽古のある日の宿題、移動、帰宅後の予定を並べ、どの部分なら変更を相談したいかを尋ねます。通う回数や時間を調整したいという希望が出たなら、指導者に可能な範囲を確かめる相談につなげられます。先に大人が解決案を埋めず、本人の言葉と相談先で確かめる条件を分けて記しておきます。
同じ予定を保つことが負担になっている子に、出席の継続だけを迫る対応は向かないでしょう。痛みや体調の問題が本人から出た場合も、運動量を増やす課題として一緒に扱わず、いったん稽古の予定とは切り分けます。今回の研究が中心に測ったのは活動量や参加であり、けがや不調を押して続けた場合の安全性ではありません。
中学生になった娘の変化を、女子だから起こるものと決める必要はありません。Farooq(2018)のように幼少期からの低下を捉えた研究もあれば、Arumi-Prat(2025)のように年長の生徒の時間や宿題の妨げを捉えた研究もあります。その違いを手掛かりに、本人が残したい運動と今の生活で変えたい条件を話し合います。
よくある質問
中学生になった女子が稽古をやめたがるのは珍しくないのか
思春期に運動量やスポーツ参加が下がる傾向は、Kimm(2002)などで報告されています。ただ、測ったのは余暇の運動やスポーツ全般への参加で、女子が空手を退会した割合ではありません。娘の希望を年齢による自然な変化だけで説明せず、通う日のどこに負担があるのか、稽古以外の運動はどう変わっているのかを聞くための手掛かりにできます。
通い続ければ日々の運動量も保てるのか
Bélanger(2009)では、組織的な活動への参加者は運動量が多い一方、年齢とともに減る傾向は参加しない生徒と同様でした。続けているという事実に加え、通う日以外にも動く機会があるかを見ておくと、暮らし全体の変化を捉えやすくなります。稽古を続けることを無意味と扱う必要も、通っているから十分と判断する必要もありません。
宿題が理由なら稽古を減らすべきか
Arumi-Prat(2025)は時間や宿題を妨げとして報告した研究で、稽古を減らす対応の効果を比べたものではありません。家庭では、宿題の量そのものが負担なのか、稽古と重なる時間帯が負担なのかを、本人の説明に沿って整理できます。回数を変える、通う時間を相談する、いったん休むといった候補を並べ、試した後に妨げが軽くなったかを振り返ります。
この記事の限界
対象は米国・英国・カナダ・スペインの子どもや若者で、女子の空手の継続・退会を直接追った集団は含まれていません。長い追跡をした研究もありますが、質問票による自己申告が多く、余暇の運動の点数、スポーツ参加、機器で測る活動量は別々の指標です。年齢の幅や調査時代も異なるため、日本の中学生の女子が稽古をやめる割合を示す根拠にはなりません。
家庭での予定の整理は相談の材料であり、身体の不調への医療上の助言や、継続を促す効果が確かめられた手順ではありません。学校での取り組みも平均の効果は小さく、女子が望む形で運動を続けるために道場で変えられる条件を、これらの結果から特定することは困難です。
参考文献
- Kimm SY. Decline in physical activity in black girls and white girls during adolescence. N Engl J Med. 2002;347(10):709-715.
- Cairney J. Biological age and sex-related declines in physical activity during adolescence. Med Sci Sports Exerc. 2014;46(4):730-735.
- Farooq MA. Timing of the decline in physical activity in childhood and adolescence: Gateshead Millennium Cohort Study. Br J Sports Med. 2018;52(15):1002-1006.
- Arumi-Prat I. Gender differences in barriers to sports participation on the transition from adolescence to young adulthood in a mediterranean region. Prev Med Rep. 2025;58:103226.
- Bélanger M. Participation in organised sports does not slow declines in physical activity during adolescence. Int J Behav Nutr Phys Act. 2009;6:22.
- Owen MB. The effectiveness of school-based physical activity interventions for adolescent girls: A systematic review and meta-analysis. Prev Med. 2017;105:237-249.
技の名前を調べた次は、組手の痛みと礼儀を稽古場で確かめる
- 向く人: 技の名前や由来を知ったうえで、型と組手で実際に体を動かしたい大人
- 向く人: けがの防ぎ方と礼儀の教え方を見てから、子どもに空手を習わせたい保護者
- 向かない人: 相手を倒す技だけを早く覚えたい人
- 向かない人: 医師から打撃や接触のある運動を止められている人
このサイトはワールド極真会空手連盟 東京支部が制作しています。稽古場はオンザショア立川店(立川駅から徒歩1分・溶岩プレートの床のスタジオ)です。
よくある質問
中学生になった女子が稽古をやめたがるのは珍しくないのか
思春期に運動量やスポーツ参加が下がる傾向は、Kimm(2002)などで報告されています。ただ、測ったのは余暇の運動やスポーツ全般への参加で、女子が空手を退会した割合ではありません。娘の希望を年齢による自然な変化だけで説明せず、通う日のどこに負担があるのか、稽古以外の運動はどう変わっているのかを聞くための手掛かりにできます。
通い続ければ日々の運動量も保てるのか
Bélanger(2009)では、組織的な活動への参加者は運動量が多い一方、年齢とともに減る傾向は参加しない生徒と同様でした。続けているという事実に加え、通う日以外にも動く機会があるかを見ておくと、暮らし全体の変化を捉えやすくなります。稽古を続けることを無意味と扱う必要も、通っているから十分と判断する必要もありません。
宿題が理由なら稽古を減らすべきか
Arumi-Prat(2025)は時間や宿題を妨げとして報告した研究で、稽古を減らす対応の効果を比べたものではありません。家庭では、宿題の量そのものが負担なのか、稽古と重なる時間帯が負担なのかを、本人の説明に沿って整理できます。回数を変える、通う時間を相談する、いったん休むといった候補を並べ、試した後に妨げが軽くなったかを振り返ります。