- 痛みの研究で使われる「閾値」は、刺激を初めて痛いと感じる境目を指します。
- 空手の選手を含む研究もあります。
- 運動を長く続けている人の特徴とは別に、その日の運動によって痛みの感じ方が一時的に変わることも調べられています。
- 「耐えられる」と「続けたい」は、さらに別の事柄です。
組手で打たれる痛みに慣れるのか|格闘競技の選手と痛みの感じ方の研究
899 人を含む研究のまとめで、運動選手は普段の生活で体を動かす人より、実験で与えられた痛みに耐えられる範囲が広い傾向を示しました。Tesarz(2012)がまとめた結果ですが、「組手を続ければ、打たれても痛くなくなる」と期待する前に、耐えることと感じることを分けて読む必要があります。慣れは痛みを消すのではなく、耐える幅が広がるだけかもしれません。
道場で組手を見ていると、打撃を受けても動きを止めない選手の姿が目に入ることもあります。子どもを通わせる保護者や大人の初心者が、その姿から、自分も続ければ平気になるのだと考えるかもしれません。ただ、動きを続けているという外から見える行動と、本人が感じている痛みは分けて受け止めたいところです。
研究には、選手と競技をしない人を比べたものと、運動する前後の変化を調べたものがあります。前者は続けてきた人の特徴、後者は運動直後の一時的な反応を扱っています。この違いをたどると、痛みに慣れたように感じる場面でも、体の状態を見直す理由が見えてきます。
痛みを感じ始める点と耐えられる範囲は違う
痛みの研究で使われる「閾値」は、刺激を初めて痛いと感じる境目を指します。一方の「耐性」は、痛みがあっても耐えられる時間や刺激の強さを指します。前者が高いことと、後者が高いことでは、同じ「痛みに強い」という言葉でも中身が違います。
Tesarz(2012)は、運動選手と普通に体を動かす人を比べた 15 研究を集め、メタ分析という、複数の研究をまとめて計算し直す方法で検討しました。耐性については、集団の差を共通の尺度で示す効果量が 0.87 で、選手が大きく上回りました。推定の不確かさを示す 95% 信頼区間は 0.53〜1.21 で、選手側の耐性の高さを示しています。
この効果量は、受けられる打撃の回数や、耐えられる痛みの倍数を表しているわけではありません。測定方法の異なる研究をまとめるための尺度であり、本人の稽古量を決める数値とは用途が違います。ここで捉えているのは、実験の条件のもとで、集団どうしにどの程度の開きがあったかという点です。
同じ Tesarz(2012)でも、閾値の結果はそろいませんでした。全体では選手の閾値が高めだったものの、結果をゆがめる偏りの大きい研究を除くと、統計的にはっきりした差がなくなりました。痛みを感じ始める境目については、どの研究を集めるかで結論が動くのに対し、耐えられる範囲では選手側の高さが比較的そろっていました。
このまとめの中心は大人の運動選手で、空手の組手だけを調べた結果ではありません。元の研究のほとんどは一時点の比較なので、競技によって変わった可能性と、もともと耐性の高い人が続けてきた可能性が残ります。したがって、稽古を続ければ痛みを感じにくくなるという因果関係は、この比較からは言えません。
打たれ強い選手と鍛える前からの気質
空手の選手を含む研究もあります。Leźnicka(2017)はポーランドで、格闘競技の男性選手 198 人と、競技をしない男子学生 86 人を比べました。選手には空手の 82 人のほか、ボクシングと総合格闘技の選手が含まれ、参加者全体の年齢は 18〜43 歳でした。
測定には、冷水に手を入れる試験と、体を押す圧力を測る圧痛計を使いました。Leźnicka(2017)では、選手はどちらの試験でも痛みへの耐性が高く、その違いは気質とも結びついていました。気質とは、感覚の鋭さや感情の反応のしやすさなど、その人にみられる反応の特徴を指します。
冷たさと圧力という違う刺激で、同じ方向の差が出た点は、この研究を読むうえで注目できます。単に試合で動きを止めなかったかではなく、測定の場をそろえて痛みの反応を比べています。それでも、冷水や器具による圧迫と、相手から受ける打撃では条件が異なります。
研究の問いは、稽古の開始前から気質が変化したかではなく、調査時点の選手と学生がどう違うかでした。Leźnicka(2017)の対照は選手より若い学生の集団で、成人男性だけが参加しています。空手を始める前からの気質の違いが、競技の選び方や継続に関わっていた可能性もあります。
そのため、結果を本人の性格の優劣に置き換えないことが大切です。「痛い」と伝える人を意志が弱いと評価したり、耐えている人のほうが稽古に向くと決めたりする目的の試験ではありません。測定された耐性と気質の関連は、痛みに関わる個人差を考える材料になります。
大人になって始める人にとっても、すでに競技を続けている選手の平均は、到達すべき我慢の水準ではありません。比べるなら、隣の人が黙って続けているかより、自分の痛みがいつ出たか、動きが普段とどう違うかを伝えるほうに目を向けたいところです。子どもに接するときにも、痛みを口にしたこと自体を、強さの評価から外して扱います。
運動直後の痛みの変化には条件がある
運動を長く続けている人の特徴とは別に、その日の運動によって痛みの感じ方が一時的に変わることも調べられています。Naugle(2012)は、運動の前後で実験的な痛みを比べた研究をまとめました。健康な大人では、運動の直後に痛みを感じにくくなる結果がみられました。
対象となったのは、呼吸を続けながら体を動かす有酸素運動、筋肉を固めて力を入れる運動、動きを伴う筋力トレーニングです。Naugle(2012)の整理では、これらの運動後に痛みを抑える反応がみられました。一方、慢性の痛み、つまり長く続く痛みを持つ大人では、痛みが弱まる場合と、かえって強まる場合がありました。
この読み方を確かめるうえで、後の Wewege(2021)が役立ちます。運動をする組と比較する組などへの割り当てをくじ引きに相当する方法で決める、無作為化比較研究に絞って調べ直した報告です。参加者の違いによる影響を減らす調べ方を選び、運動直後の痛みの変化をまとめています。
Wewege(2021)では、健康な人の有酸素運動は 7 研究、236 人で大きな効果がみられましたが、動きを伴う筋力トレーニングは 2 研究、23 人で小さな効果でした。筋肉を固める運動は 3 研究、177 人で、痛みを抑える効果がみられませんでした。先のまとめと比べると、運動の種類によって結果のそろい方が変わっています。
Wewege(2021)は、小さな研究と、偏りの程度が不明な根拠に基づく結論だと述べています。Naugle(2012)とともに扱っているのは空手固有の稽古ではなく、運動による実験的な痛みの変化です。慢性の痛みを持つ人が、痛みを抑えるために運動を強める根拠にはせず、健康な人でも運動の種類ごとに結果を読み分けます。
以下の表では、継続している選手の特徴と、運動直後の変化、痛みがあるときの出場の意思を並べています。対象と測り方をたどると、「痛みに慣れる」という言葉で異なる現象をまとめてしまうのを避けられます。
| 研究(著者 年) | 対象 | 痛みの測り方 | 結果 | 弱さ |
|---|---|---|---|---|
| Tesarz(2012) | 主に大人の選手と一般の活動者 | 実験刺激への閾値と耐性 | 選手の耐性が高い | 一時点の比較が中心、閾値の差は研究の選び方で変わる |
| Leźnicka(2017) | 空手を含む男性選手と男子学生 | 冷水と圧痛計 | 高い耐性が気質と関連 | 年齢構成が異なり、女性を含まない |
| Naugle(2012) | 健康な大人と慢性の痛みを持つ大人 | 運動前後の実験的な痛み | 健康な大人では痛みを抑える反応 | 直後の反応が中心、慢性の痛みでは結果が混在 |
| Wewege(2021) | 健康な人と慢性の筋骨格の痛みを持つ人 | 無作為化した比較研究の痛みの評価 | 健康な人の有酸素運動などで効果 | 小規模で偏りの程度が不明、筋肉を固める運動は効果なし |
| Diehl(2019) | 思春期の競技選手 | 関節痛があっても出場するかの質問 | 痛みを押して出る意思を報告 | 実際の行動やその後のけがを追っていない |
痛みを押して続ける意思と体の状態を分ける
「耐えられる」と「続けたい」は、さらに別の事柄です。Diehl(2019)はドイツの全国調査で、51 のオリンピック競技に取り組む 14〜18 歳の選手 1138 人に、関節が痛くても試合に出るかを尋ねました。そのうち 43.8% が、痛みがあっても出場する意思を示しました。
この調査は、冷水や圧力を加えて反応を測る試験とは違います。Diehl(2019)が捉えたのは本人が答えた出場の意思であり、痛みを感じ始める境目でも、耐えられる刺激の強さでもありません。「出たい」という答えには、痛みがあることが最初から含まれています。
Diehl(2019)では、女子、試合数の多い選手、寮生活の選手、体重別の競技の選手で、関節痛があっても出場するという回答が多くなっていました。こうした特徴との関連があることは、本人の耐性だけで出場の意思を説明する見方に再考を促します。痛みの強さに加えて、競技を続ける状況にも目を向ける必要があります。
実際のけがの悪化は追跡しておらず、調査はその時点の自己申告に基づいています。また、空手に絞った調査ではなく、地域で稽古する小学生の生活とも条件が違います。研究の対象と質問の内容を保って読むなら、ここで示された危うさは、痛みがあると自覚しながら出場を選ぶ意思の存在にあります。
稽古の相談でも、「まだできる」と「動かすと痛い」を別々に聞くと、伝える内容が整理しやすくなります。本人が続けたい場合でも、痛む場所、出始めた場面、普段と違う動きを先に共有する形が考えられます。出たいという希望を聞いたうえで、体の状態についても話す時間を設けます。
この区別は、大人の初心者が自分で判断するときにも使えます。「周りについていきたい」「途中で抜けたくない」という思いがあるなら、その希望と痛みの経過を別々に書き留めておくと、指導者に相談する材料になります。痛みのある日に続けられたことを、次も同じ条件で続ける根拠にせず、その日の状態を改めて伝えます。
稽古直後だけで判断せず翌日の動きまで見る
組手を続けると痛みに慣れるのかという問いには、研究で扱われた時間の長さを分けて答える必要があります。Tesarz(2012)と Leźnicka(2017)は、すでに競技を続ける人の耐性の高さを示しました。Naugle(2012)と Wewege(2021)は、その日の運動の直後に、痛みの感じ方が変わる場合を扱っています。
これらを稽古の見守りに生かすなら、終わった直後の「大丈夫」だけで確認を終えないことです。痛みが目立たないときにも、どこに打撃を受けたか、いつから違和感があったかを本人の言葉で残しておきます。翌日は腫れや動かしにくさがないかを見て、直後の感覚と並べて伝えるようにします。
家庭で記録する際は、「我慢できた」という評価だけでなく、着替えや普段の動作で気になったことも添えます。痛みが減ったと感じた時点と、動きが普段どおりになったと感じた時点を分ければ、後から経過を説明するときにも使えます。腫れや動きの変化については、家庭で病名を決める材料にせず、指導者や医療者に共有する観察として扱います。
子どもについては、空手を続ける前後で打撃への痛みの感じ方を追った研究は、この研究群にはありません。成人男性の選手の比較と、思春期の選手の出場意思の調査が、それぞれ違う問いを受け持っています。子どもが痛いと伝えた場面で、大人の選手の耐性の高さを理由に、慣れるまで続けるよう求める読み方は避けます。
痛みは消耗の競争にしません。冷水に手を入れる実験を家庭でまねたり、打撃の強さを上げて耐性を試したりするのではなく、稽古で生じた感覚と動きの経過を共有します。長く続く痛みがある人については、運動後に痛みが強まった研究結果も踏まえ、我慢を重ねる練習を目標に置かず、担当する医療者と運動の扱いを相談します。
痛みに耐える幅が広いことを、けがの少なさと同じ意味で扱わないようにします。本人の続けたい気持ちを聞くと同時に、稽古直後と翌日の腫れ、動かしにくさ、普段の動作を照らし合わせます。「耐えられた」という手応えと、見過ごしたくない体の変化を見分けます。
よくある質問
痛いと言う子どもは組手に向かないのか
痛いと伝えることだけで、向き不向きを決める根拠はありません。Leźnicka(2017)が調べたのは成人男性の選手と学生の違いであり、痛みを口にする子どもの将来の上達ではありません。稽古では、感じたことを伝える言葉として受け取り、どの場面でどこが痛んだかを聞きます。耐える様子を他の子と比べるより、本人の痛みの経過と動きの変化を共有するほうに役立てます。
稽古が終わったときに痛くなければ問題ないか
運動直後の感覚だけで、体の状態の確認を終えないようにします。Naugle(2012)は健康な大人で運動後に実験的な痛みが弱まる反応を示しており、痛みの感じ方そのものが変わる場合があります。帰宅後や翌日の腫れ、動かしにくさも見て、稽古中の出来事と一緒に伝えます。痛みがなかったという記録と、普段どおりに動けたという記録を分けて残します。
慢性の痛みがある大人も稽古で楽になるか
健康な人の結果と、長く痛みが続く人の結果は異なります。Naugle(2012)では慢性の痛みを持つ大人の反応がばらつき、Wewege(2021)もこの集団についてはさらに研究が必要だとしています。痛みが弱まることを期待して組手を強めるより、稽古と痛みの前後関係を担当する医療者に伝え、運動の内容を相談します。休んだ日を含めた経過も、相談時の材料にできます。
この記事の限界
測定の中心は冷水や圧力などで生じる実験的な痛みで、組手の打撃を繰り返し受けたときの変化や、実際のけがとの関係を直接追ったものではありません。成人男性の選手の一時点の比較と、運動直後を測る小規模な試験が主であり、稽古を始めた子どもの耐性の変化を調べた研究は含まれていません。
本稿は研究を読み解くための説明であり、個人のけがの診断や稽古を続ける可否を決める医療の助言に代わるものではありません。気質と競技継続の関係、痛みの一時的な変化が行動に及ぼす影響、耐性の高さとけがの見逃しの結びつきは、今回の比較だけでは判断できない範囲にとどまります。
参考文献
- Tesarz J. Pain perception in athletes compared to normally active controls: a systematic review with meta-analysis. Pain. 2012;153(6):1253-1262.
- Leźnicka K. Temperament as a modulating factor of pain sensitivity in combat sport athletes. Physiol Behav. 2017;180:131-136.
- Naugle KM. A meta-analytic review of the hypoalgesic effects of exercise. J Pain. 2012;13(12):1139-1150.
- Wewege MA. Exercise-Induced Hypoalgesia in Healthy Individuals and People With Chronic Musculoskeletal Pain: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Pain. 2021;22(1):21-31.
- Diehl K. [Playing hurt: dealing with joint pain in adolescent elite athletes]. Schmerz. 2019;33(1):49-56.
技の名前を調べた次は、組手の痛みと礼儀を稽古場で確かめる
- 向く人: 技の名前や由来を知ったうえで、型と組手で実際に体を動かしたい大人
- 向く人: けがの防ぎ方と礼儀の教え方を見てから、子どもに空手を習わせたい保護者
- 向かない人: 相手を倒す技だけを早く覚えたい人
- 向かない人: 医師から打撃や接触のある運動を止められている人
このサイトはワールド極真会空手連盟 東京支部が制作しています。稽古場はオンザショア立川店(立川駅から徒歩1分・溶岩プレートの床のスタジオ)です。
よくある質問
痛いと言う子どもは組手に向かないのか
痛いと伝えることだけで、向き不向きを決める根拠はありません。Leźnicka(2017)が調べたのは成人男性の選手と学生の違いであり、痛みを口にする子どもの将来の上達ではありません。稽古では、感じたことを伝える言葉として受け取り、どの場面でどこが痛んだかを聞きます。耐える様子を他の子と比べるより、本人の痛みの経過と動きの変化を共有するほうに役立てます。
稽古が終わったときに痛くなければ問題ないか
運動直後の感覚だけで、体の状態の確認を終えないようにします。Naugle(2012)は健康な大人で運動後に実験的な痛みが弱まる反応を示しており、痛みの感じ方そのものが変わる場合があります。帰宅後や翌日の腫れ、動かしにくさも見て、稽古中の出来事と一緒に伝えます。痛みがなかったという記録と、普段どおりに動けたという記録を分けて残します。
慢性の痛みがある大人も稽古で楽になるか
健康な人の結果と、長く痛みが続く人の結果は異なります。Naugle(2012)では慢性の痛みを持つ大人の反応がばらつき、Wewege(2021)もこの集団についてはさらに研究が必要だとしています。痛みが弱まることを期待して組手を強めるより、稽古と痛みの前後関係を担当する医療者に伝え、運動の内容を相談します。休んだ日を含めた経過も、相談時の材料にできます。