ワールド極真会空手連盟 東京支部立川駅北口の稽古場と、空手を始める前に読む資料室

公開:2026年10月17日/最終更新:2026年10月18日

稽古前の準備運動で子どものけがは減るか|準備運動とけが予防の研究

放課後の校庭に、道着を着た子どもたちが集まってきます。指導者の掛け声で円になり、首を回し、肩を回し、その場で足踏みをしてから走り出します。フェンスの外で見ている保護者は、この時間がわが子のけがを防いでいるのかどうかを、ふと考えるかもしれません。

この記事の要点
  • 道場で行う準備運動は、ふつう、体温を上げて関節を動かし、その日の稽古に入れる状態をつくる時間です。
  • 最も大きな試験は、Rössler ほか(2018)によるものです。
  • Lutz ほか(2026)は、中高生年代のサッカー 22 チームの準備運動 171 回(練習 87 回、試合 84 回)を撮影し、何に何秒使っているかを数えました。
  • Steffen ほか(2008)は、若い女子サッカーのチームをくじで分け、短い準備運動プログラムをシーズンを通して使わせました。

稽古前の準備運動で子どものけがは減るか|準備運動とけが予防の研究

放課後の校庭に、道着を着た子どもたちが集まってきます。指導者の掛け声で円になり、首を回し、肩を回し、その場で足踏みをしてから走り出します。フェンスの外で見ている保護者は、この時間がわが子のけがを防いでいるのかどうかを、ふと考えるかもしれません。

準備運動は、稽古の前の当たり前の光景です。ただ、体を温めるために体を動かすことと、けがを減らすために組み立てられた運動は、同じものではありません。研究で効果が確かめられているのは、後者のような中身を伴う準備運動です。子どものサッカーでは、バランス・筋力・着地を含む準備運動でけがが減った試験がありますが、空手でも同じ効果が出るかはまだ確かめられていません。

サッカーの子どもの大規模な試験と、武道の選手を対象にした試験を並べると、見えてくることがあります。数字は研究ごとの条件つきで示しますので、空手の稽古の数字としてそのまま読まずに、自分の道場に当てはまる部分を拾ってください。準備運動をめぐる研究は、競技が違っても同じ問いに行き着いています。

準備運動と「けがを減らす運動」は同じではない

道場で行う準備運動は、ふつう、体温を上げて関節を動かし、その日の稽古に入れる状態をつくる時間です。走る、跳ぶ、腕を回すといった動きが中心で、内容も長さも指導者によって違います。ここで押さえておきたいのは、この時間そのものを「けがを減らす運動」に置き換えた研究があることです。

研究で使われるのは、神経筋トレーニングと呼ばれる種類の運動です。バランスを取る、自分の体重を支える、跳んで着地する、方向を変えるといった動きを、準備運動の時間に組み込みます。体を温める効果も狙いますが、それ以上に、着地の姿勢や膝の向きを体に覚えさせることを目的にしています。着地の瞬間に膝が内側へ入る、体重がつま先に偏るといった崩れは、繰り返すうちに癖になります。準備運動は、中身まで見る必要があります。

サッカーの子どもの試験では、いつもの準備運動をこの種類のプログラムに置き換えた群と、そのままの群を比べました。置き換えたのは稽古の前の短い時間で、特別な器具を使うものではありません。だからこそ、道場でもまねできる余地があります。

準備運動を長くすればよいという話ではありません。中身が伴わなければ、時間をかけても効果は出にくいという結果が、後の節に出てきます。同じ時間を使うなら、走る部分を少し減らして、バランスと着地に回す設計が考えられます。まずは何を入れるかを軸に考えます。

子どものサッカーで準備運動を変えると何が起きたか

最も大きな試験は、Rössler ほか(2018)によるものです。複数の国の子どものサッカーのクラブをくじで群に分け、3,895 人の選手を追いました。記録されたサッカーの時間は 292,749 時間にのぼります。片方の群は、いつもの準備運動を子ども向けに組まれたけが予防のプログラムに置き換えました。

比べた群に比べて、けが全体が 48% 減りました。けがの起きやすさの比(ハザード比)は 0.52 で、95% 信頼区間は 0.32-0.86 でした。重いけがは 74% 減り、ハザード比 0.26、95% 信頼区間は 0.10-0.64 です。プログラムを続けた回数が増えるほど、けがの発生は下がりました。著者らは、少なくとも週に 1 回行うことを勧めています。

これはサッカーの研究で、空手の道場を対象にしたものではありません。競技が違えば、走る量も衝突の仕方も違います。それでも、準備運動の時間を中身ごと変えるという発想は、そのまま持ち込めます。

別のまとめでは、Emery ほか(2015)が若い選手の神経筋トレーニングの研究 25 本を合算しました。脚のけがの率は低下しましたが、膝のけがでははっきりした差を示せませんでした。詳しい数値は表にまとめています。信頼区間は推定の不確かさを表す範囲で、率の比では差がないことを表す 1 をまたぐ場合、差があるとは言い切れません。

研究 競技 年齢 人数 準備運動の中身 回数 けが全体の結果
Rössler 2018 サッカー 子ども 3,895 人 バランス・筋力・着地を含むプログラムに置き換え 週 1 回以上 48% 減(ハザード比 0.52、95% 信頼区間 0.32-0.86)
Emery 2015 チーム競技 25 研究 若い選手 研究ごとに異なる 神経筋トレーニング 研究ごとに異なる 脚のけが 0.64(95% 信頼区間 0.49 to 0.84)、膝は 0.74(0.51 to 1.07)
Steffen 2008 女子サッカー 若い選手 1,091 人と 1,001 人 短い準備運動プログラム シーズンを通して 差なし(率の比 1.0、95% 信頼区間 0.8-1.2、p = 0.94)
Kim 2026 テコンドー 16 歳以上 362 人 構造化された予防プログラム 記載なし 差なし(率の比 1.05、95% 信頼区間 0.95-1.16、p = 0.336)
Lutz 2026 サッカー 中高生年代 22 チーム 実際の準備運動を撮影して分類 記載なし けがは測っていない(バランスなどの部分に使った時間は 1 分未満)

表を上から順に見ていくと、同じ準備運動でも中身と続け方で結果がわかれていることが見えます。プログラムを置き換えて続けられた試験では差が出て、教わった通りに続かなかった試験では差が出ていません。数字の大きさだけを比べても、この違いは見えてきません。

効果が出た中身と、現場で行われている準備運動の差

Lutz ほか(2026)は、中高生年代のサッカー 22 チームの準備運動 171 回(練習 87 回、試合 84 回)を撮影し、何に何秒使っているかを数えました。バランス・筋力・敏捷性(素早く動きを切り替える力)に使われていた時間は、1 分に満たなかったと報告されています。準備運動の時間の大半は、走るなど体を温める部分が占めていました。

指導者への聞き取りでは、神経筋トレーニングの準備運動を知っていたのは 13 人のうち 38.5% で、実際に取り入れていたのは 3 人(23.1%)でした。知っていることと、やっていることの間には開きがあります。この研究が数えたのは準備運動の中身で、けがの数は入っていません。

撮影された準備運動の多くは、走る、ボールを使う、列に並ぶといった部分で時間を使っていました。準備運動という言葉でくくると、中身の偏りは見えません。バランスや着地の練習は、記録に残るほど長くは続いていません。指導者が内容を知っていても、限られた時間の中で優先順位が下がると、実際の稽古では後回しになりやすいということです。

それでも、この結果は道場にも関係します。準備運動をしているように見えても、効果が確かめられた部分がほとんど入っていないことがあるからです。時間を延ばすより、入れる動きを変えるほうが現実的です。道場を訪ねたときに「何をしていますか」と聞くだけでなく、「それは何分くらい続きますか」まで聞くと、実際の姿に近づきます。

続け方も結果を読む手がかりになる

Steffen ほか(2008)は、若い女子サッカーのチームをくじで分け、短い準備運動プログラムをシーズンを通して使わせました。介入したのは 59 チーム・1,091 人、比べたのは 54 チーム・1,001 人です。けがの率には、比べた群とのはっきりした差が認められませんでした。

差が出なかった理由として、著者らは続けられた回数の少なさを挙げています。準備運動を 20 回を超えて行ったのは、58 チームのうち 14 チームだけでした。著者らは実施の少なさが結果に関わった可能性を挙げていますが、それだけが原因だと確定したわけではありません。

Rössler ほか(2018)でも、続けた回数が増えるほどけがが減るという関係が出ています。週に 1 回以上という目安は、この続け方の話とつながっています。Emery ほか(2015)も、プログラムが広まらないことと、続かないことを課題として挙げています。

回数が足りない理由は、子どもがさぼるからとは限りません。稽古の前に使える時間が短い、指導者が交代する、試合の前は別のメニューになるといった、大人側の段取りの問題が重なります。だから、準備運動が続けられるかどうかは、道場の予定の組み方を見ると、見当がつきます。

ここで保護者ができるのは、回数を数えることではありません。道場の準備運動が週に何回、どのくらいの時間、どの動きで行われているかを、指導者に一度聞いてみることです。聞いたうえで、続けられているかを見るほうが、初めから完璧な内容を求めるより現実的です。

武道の子どもでは、どこまで確かめられているか

武道で準備運動とけがの関係を調べた試験は、多くありません。Kim ほか(2026)は、16 歳以上の一流テコンドー選手 362 人を練習拠点ごとに分け、構造化された予防プログラムを行った群と、そうでない群を比べました。けが全体の率には、両群ではっきりした差が出ませんでした。

この研究は、武道で数少ない試験のひとつです。対象は 16 歳以上の一流選手で、子どもや一般の道場ではありません。テコンドーと空手では、当てる場所や組み合いのルールが違います。抄録には重いけがが減ったという記述もありますが、率の比の数字と食い違っているため、ここではその数値を引きません。

この結果が当てはまるのは、監督やトレーナーが近くにいる競技者たちの環境です。けがの数そのものが少ない集団では、差が出にくいこともあります。一般の道場とは、練習の量も、けがをしたあとの対応も違います。武道の稽古は、当てる・受ける・組み合う動きが同じ時間に混ざる点でも、走り続ける競技とは違います。

空手の子どもの稽古で、準備運動の中身を変えてけがを数えた試験は、今回集めた研究の中にはありません。サッカーやテコンドーの結果から、空手の道場で何が起きるかを言い当てることはできません。言えるのは、準備運動の時間を中身ごと変える発想と、続け方の問題が、競技をまたいで共通しているということです。

子どもと大人で、見る点は同じではない

子どもの体は成長の途中で、同じ動きでも関節にかかる負担が変わります。跳んで着地する動きは、膝や足首の使い方を覚えるのに向いていますが、回数を増やせばよいわけではありません。疲れてくると着地の姿勢が崩れ、そこでけがが起きやすくなります。準備運動の最後に、まっすぐ立てているか、片脚でふらつかないかを見ておくと、その日の状態をつかめます。

大人の場合、久しぶりに体を動かす日ほど、準備運動を省きたくなります。大人になってから空手を始める人は、子どもの頃の感覚のまま動いて、ふくらはぎや太ももを痛めることがあります。準備運動の時間を短くするより、動きの強さを落として入るほうが、稽古全体を続けやすくなります。前の週に痛めた場所が残っているときは、隠さずに指導者へ伝えておくと、動きを変えてもらいやすくなります。片脚で立つ、しゃがんで立つといった基本の動きは、準備運動のたびに同じ形で繰り返すと、変化に気づきやすくなります。

成長の早い時期は、体の大きさと関節の使い方が一時的に合わなくなります。昨日と同じ感覚で跳ぶと、着地で膝が内側に入ることがあります。準備運動でゆっくり着地を繰り返すと、本人が違和感に気づく場面が増えます。

向かない場面もあります。けがをした直後、腫れている、熱がある、前の日の痛みが残っているときは、準備運動から参加させないほうが安全です。痛みを我慢して動かすことを美談にしないことが、長く続ける条件になります。

稽古場で確かめること

見学のときは、準備運動の時間を最初から最後まで見てください。走る時間がどれくらいで、バランスを取る動き、体重を支える動き、跳んで着地する動きが入っているかを見ます。指導者に「この準備運動は、けがを減らすために組まれたものですか」と聞いてみるのも一つの方法です。

家庭で同じ運動をさせる必要はありません。研究で確かめられているのは、道場やクラブの準備運動の時間を置き換えた場合の効果です。家で追加した場合の効果を調べた研究は、今回の中にはありません。家では、稽古のあとに痛みが残っていないか、腫れていないか、歩き方が変わっていないかを見るだけで十分です。

腫れて体重をかけられない、関節がぐらつく、痛みで稽古の動きができないときは、その日の稽古をやめて整形外科を受診してください。この三つは、準備運動を続けるかどうかを決める前に確かめる線です。痛みの強さを我慢で測らず、動けるかどうかで見ます。

準備運動の時間が週に何回あるかは、道場の予定表を見ればわかります。試合の前だけ、審査の前だけ、という場合は、続け方の条件から外れます。見学の日は、特別な行事の日ではなく、ふだんの稽古の日を選ぶと、実際の姿が見えます。

稽古を続けるかどうかを決めるときは、準備運動の中身と、週に何回その中身が行われるかの二つを、指導者に確かめておくと、判断の材料がそろいます。見学の日に聞いた内容と、実際の稽古の様子が食い違っていないかも、あわせて見ておくとよいでしょう。この二つがそろっていれば、準備運動の時間を長くするかどうかは、後からでも調整できます。

よくある質問

準備運動をしていれば、子どもはけがをしませんか

いいえ、けがをゼロにはできません。サッカーの子どもの試験では、準備運動を置き換えた群でけが全体が 48% 減りましたが、減ったのは率であって、すべてのけががなくなったわけではありません。準備運動は、けがを減らす取り組みの一つとして位置づけられます。けがの種類によっても結果は違い、膝のけがのように差がはっきりしない場合もあります。

家でも同じ運動をさせたほうがよいですか

家で追加した場合の効果は、今回集めた研究にはありません。研究が確かめたのは、クラブや道場の準備運動の時間を置き換えたときの効果です。家では、痛みや腫れがないかを見るほうが現実的です。追加したい場合は、道場の指導者に動きを確認してからにしてください。とくに跳んで着地する動きは、床の硬さや周りの物の有無で危険が変わります。

準備運動の時間は長いほうがよいですか

準備運動の長さそのものを比べた結果は、今回の研究にはありません。効果が出たプログラムは、準備運動の時間の中身を変えたものです。実際の現場では、バランス・筋力・敏捷性の部分が 1 分未満だったという報告もあります。大切なのは、何分やったかより、何を入れたかです。時間を延ばすより、入れる動きを変えるほうが、効果につながる可能性があります。

空手の道場では、どんな準備運動がよいですか

今回の根拠には、空手の子どもを対象に準備運動とけがを比べた試験はありません。サッカーでは、バランス・筋力・着地を含む中身と継続が手がかりになりましたが、週に 1 回以上という著者の提案も空手で検証した基準ではありません。道場では、その日の痛みや動きに合わせて内容を変えられるかも確認する点です。見学では、準備運動で実際にどの動きを繰り返しているかを指導者に確かめるところから始めます。

この記事の限界

対象について言えば、引いた研究のほとんどはサッカーの子どもと、16 歳以上のテコンドー選手を調べたもので、空手の道場に通う子どもを直接見た研究ではありません。空手の子どもの稽古で、準備運動の中身を変えてけがを数えた試験は、今回の検索では見つかりませんでした。

期間と評価の面でも偏りがあり、けがの数え方は研究ごとに違い、準備運動が実際にどのくらい行われたかもチームの報告に頼るものが含まれます。この記事は研究の要約であり、診断や治療の代わりにはなりません。家庭で腫れや痛みを確かめ、体重をかけられない、関節がぐらつく、痛みで動けない場合は稽古を中止して整形外科を受診する判断が求められます。

参考文献

  1. Rössler ほか. A Multinational Cluster Randomised Controlled Trial to Assess the Efficacy of ‘11+ Kids’: A Warm-Up Programme to Prevent Injuries in Children’s Football. Sports Med. 2018;48(6):1493-1504.
  2. Emery ほか. Neuromuscular training injury prevention strategies in youth sport: a systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med. 2015;49(13):865-870.
  3. Steffen ほか. Preventing injuries in female youth football–a cluster-randomized controlled trial. Scand J Med Sci Sports. 2008;18(5):605-614.
  4. Kim ほか. The effect of a structured injury prevention program on injury severity and type in elite Adolescent and Young Adult Taekwondo athletes. Phys Ther Sport. 2026;80:101943.
  5. Lutz ほか. A Video Analysis Study Examining Neuromuscular Training Warm-Up Practices in Youth Soccer. Clin J Sport Med. 2026.

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よくある質問

準備運動をしていれば、子どもはけがをしませんか

いいえ、けがをゼロにはできません。サッカーの子どもの試験では、準備運動を置き換えた群でけが全体が 48% 減りましたが、減ったのは率であって、すべてのけががなくなったわけではありません。準備運動は、けがを減らす取り組みの一つとして位置づけられます。けがの種類によっても結果は違い、膝のけがのように差がはっきりしない場合もあります。

家でも同じ運動をさせたほうがよいですか

家で追加した場合の効果は、今回集めた研究にはありません。研究が確かめたのは、クラブや道場の準備運動の時間を置き換えたときの効果です。家では、痛みや腫れがないかを見るほうが現実的です。追加したい場合は、道場の指導者に動きを確認してからにしてください。とくに跳んで着地する動きは、床の硬さや周りの物の有無で危険が変わります。

準備運動の時間は長いほうがよいですか

準備運動の長さそのものを比べた結果は、今回の研究にはありません。効果が出たプログラムは、準備運動の時間の中身を変えたものです。実際の現場では、バランス・筋力・敏捷性の部分が 1 分未満だったという報告もあります。大切なのは、何分やったかより、何を入れたかです。時間を延ばすより、入れる動きを変えるほうが、効果につながる可能性があります。

空手の道場では、どんな準備運動がよいですか

今回の根拠には、空手の子どもを対象に準備運動とけがを比べた試験はありません。サッカーでは、バランス・筋力・着地を含む中身と継続が手がかりになりましたが、週に 1 回以上という著者の提案も空手で検証した基準ではありません。道場では、その日の痛みや動きに合わせて内容を変えられるかも確認する点です。見学では、準備運動で実際にどの動きを繰り返しているかを指導者に確かめるところから始めます。