- Senn(2015)は、カナダの大学の1 年生女性を、抵抗の講習を受ける451 人と、パンフレットを渡される442 人に分けました。
- Sarnquist(2014)は、ケニアのナイロビ近郊に住む十代の女性1,978 人に、自分を守る意識、相手を落ち着かせる言葉、自己防衛の技能を教えました。
- Tark(2014)は、米国の全国犯罪被害調査を使い、性暴力への抵抗と、レイプの既遂や追加のけがとの関係を調べました。
- Hartmann(2025)は、南アフリカの学校で10〜19 歳の女子を対象に、自己防衛の講習を検討しました。
護身のために蹴りを覚える大人へ|護身術の講習と被害を防ぐ研究
5.2%と9.8%は、カナダの大学生女性を対象に、護身の講習を受けた群とパンフレットを渡された群で、1 年の間にレイプの既遂を経験した割合です。Senn(2015)の無作為化比較試験、つまりくじ引きのように群を分けて比べる研究では、講習を受けた群で被害が少なくなりました。護身のために蹴りを覚えたい大人にとって、こうした講習や空手の稽古が身を守る役に立つかは、切実な疑問です。被害の減少を示す講習の試験はありますが、中心となる対象は大学生や十代の女性で、空手の道場や蹴り単独の効果を調べた研究ではありません。
夜、暗い窓に映った自分の姿を見て、いざというときに体を動かせるだろうかと考えることがあるかもしれません。ただ、研究で扱われたのは、見知らぬ相手への対応だけではなく、知人との間で起きる性暴力でもありました。講習では危険を見積もること、抵抗をためらう気持ちを扱うこと、言葉と体で身を守ることを組み合わせています。学ぶ内容を選ぶには、技の名前よりも、どんな場面に備え、何を練習する講習なのかに目を向ける必要があります。
大学生の試験で役立ったのは講習全体
Senn(2015)は、カナダの大学の1 年生女性を、抵抗の講習を受ける451 人と、パンフレットを渡される442 人に分けました。講習は4 回、合計12 時間で、各回は3 時間です。受講前後の感想だけでなく、その後の被害を追って群どうしで比べた点が、この研究の重要な特徴です。
講習の柱には、危険を見積もること、感情的なためらいを越える練習、言葉と体による自己防衛がありました。たとえば、危険な状況だと判断することと、相手との関係を気にせず行動することは、講習の中でも別の課題として扱われています。体を動かす練習は、その組み合わせの一部でした。蹴りの強さや速さだけを比べた試験ではないことは、講習内容そのものからわかります。
研究では、1 年間のレイプ既遂の危険が、講習群で統計的に有意に低くなりました。これは、群間の差が偶然のばらつきだけでは説明しにくいという意味です。著者らは既遂に加え、未遂やほかの形の被害も減ったと結論づけています。講習を受けたことの意味を、本人の「自信がついた」という感想から一歩進めて検討した研究です。
一方、この試験で被害を把握する方法は本人の申告で、加害者は主に知人でした。そのため、講習を探す際には、知らない相手への動作の練習だけでなく、知っている相手からの行為をどう扱う内容なのかも確認する価値があります。パンフレットによる情報提供と、時間をかけて言葉や行動を練習する講習との比較だった点も、受講内容を見比べる手掛かりです。
十代の女性への講習では何が変わったか
Sarnquist(2014)は、ケニアのナイロビ近郊に住む十代の女性1,978 人に、自分を守る意識、相手を落ち着かせる言葉、自己防衛の技能を教えました。講習は6 回で、各回2 時間、合計12 時間です。参加者をその後も追う前向きの研究で、約10.5 か月後までの被害を調べています。
性暴力の発生率は、開始時の100 人年あたり17.9 件から、追跡時には11.1 件へ低下しました。人年は、参加者それぞれを観察した期間を合わせて表す単位です。ここでの結果は、観察時間を考慮した発生率の変化であり、Senn(2015)の「1 年の間に被害を経験した割合」とは表示の方法が異なります。
比較の相手は、生活技能の授業を受けた428 人でした。ただし、どちらを受けるかは無作為に決められておらず、最初からの生活環境や集団の違いが結果に重なる可能性があります。匿名で答える自己申告によって被害を集めた点も、結果を読む際の条件です。著者らは講習による性暴力の減少を報告していますが、研究の組み立てはカナダの試験と区別して読む必要があります。
この講習にも、体を使う抵抗以外の内容が含まれていました。相手とのやりとりを言葉で扱う練習まで含めて、被害の変化を追っています。講習の名称が同じでも、体の動かし方に割く時間と言葉の練習に割く時間は、内容を知るうえで別々に確かめたい点です。
大人向けの学びを考えるとき、この研究は十代の女性への取り組みとして位置づけます。日本の子どもの習い事を選ぶ保護者にとっても、対象年齢だけでなく、そこで扱う人間関係や生活環境を読む必要があります。年齢の近さだけを頼りに選ぶのではなく、本人が備えたい場面と講習で扱う場面を並べて検討する方法が考えられます。
抵抗するとけがが増えるのか
Tark(2014)は、米国の全国犯罪被害調査を使い、性暴力への抵抗と、レイプの既遂や追加のけがとの関係を調べました。分析では、抵抗がけがより前だったのか、後だったのかも区別しています。けがをしたために抵抗した事例と、抵抗した後にけがをした事例を分けることは、出来事の順序を考えるうえで重要です。
その結果、力を使う行動も使わない行動も、多くは既遂の危険が低いことと結びついていました。追加のけがについては、抵抗による統計的に有意な変化は見られませんでした。ただし、これは現実に起きた事件の観察データで、被害時の行動を研究者が割り振った実験ではありません。抵抗した人とそうでない人では、相手や事件の状況が異なる可能性があります。
Wong(2018)は、抵抗と既遂の回避を扱った7 本の研究をメタ分析、つまり複数の研究をまとめて計算する方法で検討しました。抵抗した女性は、抵抗しなかった女性よりも既遂を避けることと結びついていました。ここで問われているのは、講習を受けたかどうかよりも、被害場面でどのような行動があったかという関係です。
一方、まとめた研究の多くは、同じ米国の犯罪被害調査の重なった標本を使っていました。研究の本数が増えても、それぞれがまったく別の人や事件を調べているとは限りません。Wong(2018)は、抵抗がけがの増加と結びつくという別の知見にも触れています。既遂の回避と、けがをせずにその場を離れられることは、別々に検討すべき結果です。
抵抗とけがの関係には、まだ決着していない部分があります。ここから「抵抗すれば安全」という行動の命令を作るのは適切ではなく、被害を受けた人の対応を後から採点する使い方も避けるべきです。被害の責任は加害者にあります。抵抗の研究は選択肢を検討するために読み、被害に遭った人を責める根拠にはしません。
被害が減らなかった学校の試験もある
Hartmann(2025)は、南アフリカの学校で10〜19 歳の女子を対象に、自己防衛の講習を検討しました。学校ごとに講習群と対照群をくじ引きで分ける、クラスター無作為化試験です。個人ごとに分ける試験と異なり、授業が行われる学校という集団を単位に比較しています。
登録したのは1,540 人で、主要な結果のデータを得られたのは1,250 人でした。開始時には35%が過去の年の性暴力を報告し、追跡時には33%が報告しました。この前後の数字だけを見るのではなく、講習を行わなかった対照群との比較が、講習の効果を判断する中心になります。
対照群と比べると、講習群で性暴力が統計的に有意に減ったとはいえない結果でした。差が見られたのは自己防衛の知識です。知識を覚えたことと、生活の中で被害が減ることは、別の結果として測られています。「内容を理解できた」という評価だけで、被害予防の成否を決めない理由がここにあります。
この試験の講習は、コロナ禍に対応して内容や実施方法を変えたものでした。実施時間の不足や、学校全体の協力が十分でなかったことも、結果に関わりうる条件として挙げられています。著者らは、講習を取り巻く状況と、実際にどう実施されたかの両方が結果に影響した可能性を論じています。
Senn(2015)やSarnquist(2014)で減少が報告されたことと、この試験で減少が示されなかったことは、両方を残して読む必要があります。同じように自分を守る力を育てる講習でも、対象者の置かれた状況や実施の条件まで同一ではありません。どこでも同じ結果が出ると期待するより、予定した内容を実際にどれだけ学べるのかを、講習選びの確認点に加えることができます。
講習の回数より、比較の条件を読む
講習を受ける研究と、事件の際の抵抗を調べる研究では、答えようとしている問いが異なります。前者は教育の効果、後者は実際の行動と被害との結びつきを扱います。受講先を考える際には、まず講習の研究を対象者と比較相手ごとに並べると、報告された結果の位置づけが見えます。
| 研究(著者 年) | 国 | 対象と人数 | 講習の回数と時間 | 比べた相手 | 追跡期間 | 主な結果 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Senn 2015 | カナダ | 大学1 年生の女性、講習451 人・比較442 人 | 4 回、合計12 時間 | パンフレットを渡す群 | 1 年 | レイプ既遂は講習群5.2%、比較群9.8% |
| Sarnquist 2014 | ケニア | 十代女性、講習1,978 人・比較428 人 | 6 回、合計12 時間 | 生活技能の授業を受ける群 | 約10.5 か月 | 講習群の性暴力発生率が低下 |
| Hartmann 2025 | 南アフリカ | 10〜19 歳の女子、登録1,540 人・主要結果1,250 人 | コロナ禍向けに変更した講習 | 講習を行わない学校の群 | — | 対照群に比べ有意な減少なし |