- Stanuszek(2015)は、発作で入院した子ども 407 人について、発作を起こすきっかけである誘因と、運動に関する医師の助言を調べました。
- Ibañez-Micó(2024)は、医師が出す薬が効きにくいてんかんの子ども 29 人を、運動に取り組む群と比較のための対照群へ無作為に分けました。
- van den Bongard(2020)は、てんかんのある人のスポーツと身体活動を扱う 42 研究を検討しました。
- Capovilla(2016)の専門家による合意文書は、発作が起きた場合のけがや死亡の危険に着目して、スポーツを 3 群に分類しています。
発作が心配な子どもと空手|てんかんと接触のある運動の研究
自宅で子どもと空手の予定を話すとき、体を動かしたい気持ちを受け止めながら、稽古中の発作や組手で頭を打つことが気になる保護者もいるでしょう。運動を一律に遠ざける根拠は乏しい一方、接触を含む稽古への参加は、発作の様子と運動の内容を主治医に伝えて相談する課題です。 運動をしたときに発作が増えるかという問題と、発作が起きた場所でどんなけがにつながるかという問題では、確かめる内容が異なります。
てんかんのある子どもが空手をする場面を直接調べた研究はなく、ここで取り上げるのは運動全般の試験、接触競技の文献、専門家の合意です。子どもの運動試験では発作の増加はみられず、スポーツ参加を狭めすぎてきた現状を示す調査もあります。一方で、発作に伴う頭のけがは報告されており、運動の研究を読むときにも、発作の回数だけでなく、競技の内容やけがの起こり方まで目を向けたいところです。
判断の中心は、その子の発作です。研究の結果をたどりながら、家庭で残せる記録と、指導者や主治医へ伝える内容を考えます。空手という名前だけで参加を決めるのではなく、頭への接触を含む稽古の内容まで相談に持ち込むことが出発点になります。
てんかんのある子どものスポーツ参加と運動制限
Stanuszek(2015)は、発作で入院した子ども 407 人について、発作を起こすきっかけである誘因と、運動に関する医師の助言を調べました。全体のうち運動が誘因として記録されていた子どもは 3.4% でしたが、身体活動を制限するよう勧められた子どもは 8.1% でした。著者は、このようにスポーツ活動を制限する勧告を支持しないと結論しています。
この調査で運動との関係を探した材料は、入院した子どもの記録です。運動がきっかけとして残っていた例と、運動制限を勧められた例の割合に隔たりがありました。Stanuszek(2015)の結果を読む際には、制限を受けた現状と、実際に誘因が記録された現状の両方を押さえることが大切です。本人に運動と結びつく発作の経験がある場合、その経緯は主治医への相談材料になります。
参加の少なさを別の角度から調べたのが Wong(2006)です。てんかんのある 5〜17 歳の子どもと、てんかんのないきょうだいを、保護者への質問票で比較しました。てんかんのある十代では、集団で行うスポーツへの参加と、スポーツ活動全体への参加が少ないという結果でした。過去の発作やスポーツ中の発作に伴うけがは、活動への参加の少なさと結びついていませんでした。
Wong(2006)の調査は、同じ家庭のきょうだいを比較相手にした点が特徴です。ただし、発達や運動に大きな障害のある子どもは対象から除かれ、活動量も保護者の回答から捉えています。著者が運動参加を支える取り組みを勧めた背景には、病気のある子ども、とりわけ十代の活動機会が少ないという観察があります。運動制限の調査と合わせると、参加に伴う危険を考えることと、参加の機会そのものを検討することが並ぶ課題になります。
運動した子どもの発作は増えたのか
Ibañez-Micó(2024)は、医師が出す薬が効きにくいてんかんの子ども 29 人を、運動に取り組む群と比較のための対照群へ無作為に分けました。運動群では、体を動かし続ける有酸素運動を週 3 回、各 1 時間、6 か月続けました。身に着ける活動計を使って運動を支えた試験で、運動量と発作の頻度の変化を追っています。
Ibañez-Micó(2024)の運動群では、発作の頻度が開始時の週 10.5 回から終了時の週 4.5 回になりました。一方、対照群でも週 5.2 回から週 1 回へ減っています。数字の上では対照群の減りも大きく、運動群だけに改善が生じた結果ではありません。開始時から両群の発作の頻度が違うことも、この試験の比較を読むうえで重要です。
この試験について言えるのは、運動量が増えた子どもたちで発作の頻度が増えなかったというところまでです。運動群の開始前と終了後だけを取り出して、運動によって発作が減ったとは言えません。Ibañez-Micó(2024)が結論に置いたのも、活動計の支えによって運動時間が増え、発作の増加を伴わなかったという点です。
試験の対象が、薬の効きにくいてんかんの子どもだったことにも意味があります。発作が心配される子どもの運動を、実際に一定期間続けて調べた結果だからです。同時に、運動量を増やす取り組みの成績として、発作の経過と生活の質の評価を扱っています。組手の打撃を受ける場面ではなく、有酸素運動を継続する場面で得られた結果として位置づけられます。
長く運動を続けた研究の確かさ
van den Bongard(2020)は、てんかんのある人のスポーツと身体活動を扱う 42 研究を検討しました。てんかんのある人は一般の人より身体活動が少なく、体力も低い傾向があり、多くの場合、運動による発作の頻度の増加はみられませんでした。著者はスポーツへの参加を一律に禁じる理由はないとしています。そのうえで、競技の選択を個別に判断する立場を取っています。
この検討は、運動量や体力の比較と、運動を行った際の発作への影響という異なる問いを扱っています。参加している人の状態を比べる調査と、運動を行って経過を見る試験では、結果の成り立ちも異なります。van den Bongard(2020)では根拠の水準が低い研究が大半を占めており、子どもだけを対象にした検討でもありません。したがって、子どもの長期的な運動の影響については、子どもに焦点を絞った文献も確かめたいところです。
Arida(2023)は、子どもと思春期のてんかんを対象とする文献 1,316 本を選別し、13 研究の全文を検討しました。そのうち長期間の運動プログラム後に発作の頻度と生活の質を評価したのは 6 研究でした。発作の頻度について好ましい結果があったのは 2 研究、生活の質では 3 研究で、方法の質が高いと判定された研究はありませんでした。運動の内容などにも違いがあり、結果をまとめた単一の数値は出していません。
Arida(2023)が示した課題は、長く運動した子どもの経過を調べた研究の少なさと、その方法の弱さです。発作の回数を減らす効果の確かさと、運動を行った際に回数が増えなかったという観察は、別々に評価されます。先ほどの試験も、この総説の後に発表された小規模な報告です。研究の蓄積は進んでいますが、発作の減少を運動の効用として期待させるには根拠が弱い段階にあります。
接触と頭のけがを考えるときの判断材料
Capovilla(2016)の専門家による合意文書は、発作が起きた場合のけがや死亡の危険に着目して、スポーツを 3 群に分類しています。第 1 群は大きな追加の危険がない競技、第 2 群は本人に中程度の危険があるものの周囲の人への危険はない競技、第 3 群は大きな危険のある競技です。分類の軸は、運動で発作が誘発されるかだけでなく、発作が生じたときの結果に置かれています。
参加を考える材料として Capovilla(2016)が挙げたのは、スポーツの種類、発作の起こる可能性、発作の型と重さ、誘因、普段発作が起きる時間帯です。これは、同じ病名でも本人の発作と運動の条件を照らす考え方です。合意文書は、新しいデータに応じて更新していく位置づけで示されています。空手をこの分類の特定の群に割り当てる説明はここでは行わず、組手や頭への接触を含む内容を主治医との相談に使います。
Sahoo(2004)は、アメリカンフットボールなど、地上で接触や衝突がある競技を扱った総説です。発作が接触競技中のけがにつながる心配や、繰り返す軽い頭部外傷がてんかんを悪化させる心配を検討し、害を支持する強い根拠は乏しいと述べています。ただし、古い文献に基づく見解で、子どもの打撃を伴う稽古の安全を立証したものではありません。
けがそのものを調べた Asiri(2022)は、サウジアラビアの外来で、7 歳以上の子どもと成人を含む 200 人に聞き取りました。そのうち 86 人、43% が普段の発作中にけがを経験していました。けがの内訳では、皮膚や筋肉などの軟らかい組織のけがが 36.5%、頭のけがが 32%、歯のけがが 8.5%、やけどと脱臼がそれぞれ 7%、骨折が 6.5%、水に沈む事故が 2% でした。
Asiri(2022)でけがが起きた場所は家庭が多く、稽古中のけがを調べた調査ではありません。発作に伴う負傷には頭のけがも含まれるという日常生活の情報であり、競技中に打撃を受けた記録とは性質が異なります。接触競技の文献が扱う心配と、発作に伴って経験されたけがを並べることで、主治医に伝える内容も、運動の名前から発作と接触の状況へと詳しくできます。
研究ごとの対象と結果を並べる
下の表は、活動への参加を調べた調査、運動を続けた試験、文献を検討した総説、専門家の合意を並べたものです。試験では比較相手の経過を、調査では誰のどの場面を捉えたかを残しています。発作の増減とけがの経験は別の結果なので、それぞれの欄に研究で調べた内容を示します。
| 研究 | 型(試験・調査・総説・合意) | 対象 | 発作・けがについてわかったこと |
|---|---|---|---|
| Stanuszek(2015) | 調査 | 発作で入院した子ども 407 人 | 運動が誘因と記録されたのは 3.4%、運動制限を勧められたのは 8.1% |
| Wong(2006) | 調査 | てんかんのある 5〜17 歳と、てんかんのないきょうだい | 十代のスポーツ参加が少ない。過去の発作や競技中の発作に伴うけがは参加の少なさと結びつかなかった |
| Ibañez-Micó(2024) | 試験 | 薬の効きにくいてんかんの子ども 29 人 | 発作は運動群で週 10.5 回から 4.5 回、対照群で週 5.2 回から 1 回。両群で減少 |
| van den Bongard(2020) | 総説 | てんかんのある人全般を扱う 42 研究 | 多くの場合、運動で発作は増えなかった。根拠の水準が低い研究が大半 |
| Arida(2023) | 総説 | 子どもと思春期の長期運動プログラム | 発作と生活の質を評価した 6 研究のうち、発作の好ましい結果は 2 研究。方法の質が高い研究はなかった |
| Capovilla(2016) | 合意 | てんかんのある人のスポーツ参加 | 発作時の危険による 3 分類を示し、競技と本人の発作の条件を判断材料に挙げた |
| Sahoo(2004) | 総説 | 接触・衝突のある地上の競技 | けがや反復する頭部外傷への懸念を検討。接触競技の害を支持する強い根拠は乏しいとする見解 |
| Asiri(2022) | 調査 | 外来を受診した 7 歳以上の 200 人 | 43% が発作中のけがを経験。けがの内訳では頭が 32%。発生場所は家庭が多い |
相談に持っていく発作の記録
家庭で整理する内容は、Capovilla(2016)が挙げた判断材料に沿って絞れます。主治医から説明されている発作の型、これまでの頻度、起きやすい誘因、時間帯を、相談でたどれる形に残します。発作の型を保護者が新たに診断するのではなく、医師の説明と日々見た様子を結びつけて伝えるための記録です。
運動がきっかけになったと感じる出来事があれば、そのとき何をしていたかと、起きた時間帯を添えます。Stanuszek(2015)が扱ったように、運動と発作の関係は本人の経過の中でも確かめる材料です。思い当たる出来事をまとめて主治医に見せ、誘因としてどう考えるかを相談します。保護者の印象だけで原因を決めず、記録した出来事をそのまま伝える形が役立ちます。
指導者には、発作が起きた際の対応について主治医から受けている説明を共有し、伝わっているかを確かめます。共有する内容を相談する際には、普段の発作の様子と起きやすい時間帯も一緒に扱います。発作時の処置を独自に組み立てるより、その子について医療側から示された対応を家庭と稽古場でつなぐことが相談の焦点です。
空手への参加については、組手を含むのか、頭への接触があるのかを指導者に確かめ、主治医へ伝えます。運動全般の研究結果に加えて、本人の発作と予定する稽古の内容がそろうと、相談する対象がはっきりします。家庭では、次の診察で経過を説明できるよう、発作の型について受けた説明、起きた頻度、誘因と思われる出来事と時間帯を記録します。
よくある質問
運動をすると発作が増えるのか
Ibañez-Micó(2024)の子どもの試験では、運動量が増えても発作の頻度は増えませんでした。van den Bongard(2020)の総説でも、多くの場合は増加がみられませんでした。一方、運動が誘因として記録された子どもを報告した Stanuszek(2015)の調査もあり、本人に起きた発作と活動の経過を主治医に伝えることが判断につながります。
頭を打つ可能性のある組手には参加できるのか
組手や頭への接触を含む稽古の可否は、主治医に相談して判断を受ける内容です。Capovilla(2016)は、競技の種類だけでなく、発作の起こる可能性、型と重さ、誘因、時間帯を挙げています。相談では、指導者に確かめた稽古の内容と、家庭で記録した発作の様子を一緒に伝えます。接触のある運動を検討する際にも、本人の条件を含めた判断が中心になります。
指導者に発作のことを伝えるときは何を共有するのか
普段の発作の様子、起きやすい誘因や時間帯、主治医から示された発作時の対応を共有します。家庭で説明したつもりでも、どのように対応するかまで伝わっているかを確かめる場を設けます。稽古の内容についても指導者から聞き、主治医との相談に戻せる形にします。発作についての医療側の説明と、実際に行う運動についての指導者の説明をつなぐことが目的です。
この記事の限界
対象は、入院した子ども、運動プログラムに参加した少人数の子ども、成人を含む外来患者などにわかれています。参加の調査には保護者の質問票、けがの調査には本人の記憶が使われ、対象の選び方と測り方に偏りがあります。長期の運動を扱った総説でも方法の質が高い研究はなく、発作の減少に関する確かさは低いままです。
打撃のある競技を扱った文献は、子どもの空手の組手で頭への接触と発作の経過を追ったものに乏しく、ここで示した接触競技の見解も古い総説に基づきます。稽古中の頭への接触と発作・けがの経過を結びつけるには、接触の程度別に子どもを追う資料が不足しています。
参考文献
- Stanuszek A. Seizure-Precipitating Factors in Relation to medical Recommendations. J Child Neurol. 2015;30(12):1569-1573.
- Wong J. Physical Activity in Children/Teens with Epilepsy Compared with That in Their Siblings without Epilepsy. Epilepsia. 2006;47(3):631-639.
- Ibañez-Micó S. Effect of a physical exercise program supported by wearable technology in children with drug-resistant epilepsy. A randomized controlled trial. Seizure. 2024;121:56-63.
- van den Bongard F. Sport and Physical Activity in Epilepsy. Dtsch Arztebl Int. 2020;117(1-2):1-6.
- Arida RM. Physical exercise for children and adolescents with epilepsy: What have we learned? Seizure. 2023;111:1-8.
- Capovilla G. Epilepsy, seizures, physical exercise, and sports: A report from the ILAE Task Force on Sports and Epilepsy. Epilepsia. 2016;57(1):6-12.
- Sahoo SK. Epilepsy in football players and other land-based contact or collision sport athletes: When can they participate, and is there an increased risk? Curr Sports Med Rep. 2004;3(5):284-288.
- Asiri S. Seizure-related injuries in people with epilepsy: A cohort study from Saudi Arabia. Epilepsia Open. 2022;7(3):422-430.
技の名前を調べた次は、組手の痛みと礼儀を稽古場で確かめる
- 向く人: 技の名前や由来を知ったうえで、型と組手で実際に体を動かしたい大人
- 向く人: けがの防ぎ方と礼儀の教え方を見てから、子どもに空手を習わせたい保護者
- 向かない人: 相手を倒す技だけを早く覚えたい人
- 向かない人: 医師から打撃や接触のある運動を止められている人
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よくある質問
運動をすると発作が増えるのか
Ibañez-Micó(2024)の子どもの試験では、運動量が増えても発作の頻度は増えませんでした。van den Bongard(2020)の総説でも、多くの場合は増加がみられませんでした。一方、運動が誘因として記録された子どもを報告した Stanuszek(2015)の調査もあり、本人に起きた発作と活動の経過を主治医に伝えることが判断につながります。
頭を打つ可能性のある組手には参加できるのか
組手や頭への接触を含む稽古の可否は、主治医に相談して判断を受ける内容です。Capovilla(2016)は、競技の種類だけでなく、発作の起こる可能性、型と重さ、誘因、時間帯を挙げています。相談では、指導者に確かめた稽古の内容と、家庭で記録した発作の様子を一緒に伝えます。接触のある運動を検討する際にも、本人の条件を含めた判断が中心になります。
指導者に発作のことを伝えるときは何を共有するのか
普段の発作の様子、起きやすい誘因や時間帯、主治医から示された発作時の対応を共有します。家庭で説明したつもりでも、どのように対応するかまで伝わっているかを確かめる場を設けます。稽古の内容についても指導者から聞き、主治医との相談に戻せる形にします。発作についての医療側の説明と、実際に行う運動についての指導者の説明をつなぐことが目的です。