- Crosby(1985)は、空手を少なくとも 5 年続けた指導者 22 人の手と手首を診察し、X線で調べました。
- 空手以外の打撃競技として、Loosemore(2017)は英国代表のアマチュアボクサーを 2005〜2012 年に追い、手と手首のけがを記録しました。
- 打ち続ければ骨が丈夫になるという考えに近い検討として、Bolam(2016)はボクシング選手の骨密度を測っています。
- 手の関節に変化があると、まず打ってきたこととの関係を考えたくなるかもしれません。
拳を鍛えると手は変形するのか|空手の巻藁と手の関節の研究
巻藁を打って拳を鍛え続けると、年を重ねたときに手の関節まで変形するのでしょうか。空手家の手を調べた報告では早期の関節症を招く証拠は得られていませんが、巻藁による長期の変形の増減を判断する根拠は足りません。 空手そのものを扱う Crosby(1985)と Larose(1969)は、いずれも小規模で古い報告です。
稽古場で巻藁の前に立ち、先輩の拳と自分の手を見比べると、見た目の変化が気になることもあります。拳ダコは拳の皮膚にできる硬い部分を指す言葉ですが、ここで引く研究は、その厚さと関節の健康との関係を測っていません。皮膚、骨、関節、手の使いやすさは、それぞれ確かめる場所が違います。
手の研究には、X線で骨を見た報告、けがを記録した調査、本人が痛みや動作について答えた調査があります。たとえば、手を使う機能の点数が似ていても、特定のけがが多いという結果は両立します。巻藁への疑問を解くには、まず空手家の手に何が見つかったかをたどり、その後に他競技で測られた負担と長い経過を見ていくと、研究の答えの輪郭がはっきりします。
拳ダコができるほど巻藁を打つと手の関節はどう変わるのか
Crosby(1985)は、空手を少なくとも 5 年続けた指導者 22 人の手と手首を診察し、X線で調べました。そこで見つかったのは、古い骨折の跡が計 10 件という結果です。一方、空手の実践が早期の変形性関節症や慢性の腱鞘炎を招く証拠は得られなかったと報告しています。
変形性関節症は、関節の軟骨や骨などに変化が起きる病気です。腱鞘炎は、筋肉の力を伝える腱と、その周囲の鞘に関わる炎症を指します。Crosby(1985)が見ていたのは、拳の表面の印象だけでなく、こうした手の内部の問題でした。骨折の跡と慢性の関節の病気を別々に記述している点が、この結果を読む要所です。
Larose(1969)も、手の鍛錬を熱心に続ける限られた人数の空手家について、手のX線を調べています。筋肉や腱など骨以外の組織にカルシウムが沈着する石灰化や、手のひらの骨の先端にあたる中手骨頭の損傷は見つかりませんでした。観察の中心は画像上の構造であり、稽古の量を増減させてその後の変化を比べる形ではありません。
この両報告では、鍛錬していない人を並べた比較群はありません。Crosby(1985)の対象は指導者として続けてきた人なので、手を痛めて離れた人の経過は含まれません。今も稽古を続けている人の手に残る所見と、始めた人全体に起きる変化との間には、対象者の選ばれ方という隔たりがあります。骨折が見つかった事実も、慢性の関節症を招く証拠が得られなかった事実も、この対象の条件と一緒に受け止める結果です。
打撃競技では、けがと手の機能が別の結果を示す
空手以外の打撃競技として、Loosemore(2017)は英国代表のアマチュアボクサーを 2005〜2012 年に追い、手と手首のけがを記録しました。目立ったのは、手の根元の関節が不安定になるけがと、ボクサーズナックルと呼ばれる指の付け根のけがでした。後者は関節を包む袋や指を伸ばす腱に関わり、拳の表面の硬さとは別の部位を扱っています。
Loosemore(2017)では、手と手首のけがは練習中より試合中に多く、試合では 1000 時間あたり 347 件と報告されました。競技中に起きるけがを時間とともに記録したため、同じボクシングでも練習と試合という場面の違いが表れています。対象はグローブを着けて競技を行う上位選手で、負担のかかり方には対戦相手との応酬も含まれます。
Giannatos(2022)は別の角度から、ギリシャの 35 歳未満の男性ボクサー 62 人と、ボクシングをしない男性 75 人に質問票で回答を求めました。手首の痛みや使いにくさを本人が評価する点数は、両群で同程度でした。その一方、親指のけがとボクサーズナックルはボクサーに多いという結果でした。
この違いは、調べた項目を順に追うと理解しやすくなります。Giannatos(2022)の質問票は本人が感じる機能を捉え、Loosemore(2017)の記録は競技中のけがの種類と場面を捉えています。前者ではX線を用いた関節の評価を行っておらず、後者では練習と試合の発生状況に焦点が当たっています。手が使えているという回答だけで画像の状態まで一括りにせず、機能とけがの両方を見た結果として読むと、悪い方向の所見も見失わずに済みます。
骨密度の測定では、拳の強さまで測っているか
打ち続ければ骨が丈夫になるという考えに近い検討として、Bolam(2016)はボクシング選手の骨密度を測っています。骨密度は、骨に含まれるミネラルの量を面積などに対して評価する指標です。この研究は空手の巻藁ではなく、男性のアマチュアボクサーと、ボクシング以外の運動習慣を持つ男性の比較でした。
Bolam(2016)の対象は、18〜44 歳のボクサー 30 人と、年齢を合わせた対照の 32 人です。前腕と腕の骨密度はボクサーで 1.5〜2.2% 高かったものの、統計的に明確な差にはなりませんでした。著者は上肢の骨密度と骨のミネラル量に有意差がなく、腕の骨の健康には筋肉量が重要と考えられると述べています。
ここでの比較相手は、運動習慣のある人でした。打撃を含む運動をする人と、別の運動をする人を比べているため、単に動く人と動かない人との対照とは異なります。また、同じ時点でそれぞれの人を測る横断研究なので、参加者が競技を始める前の骨密度からの変化は追っていません。測定時の群の違いと、本人の骨が鍛錬で変わった経過は、設計上の異なる問いです。
測った場所も大切です。Bolam(2016)が評価したのは前腕と腕で、打撃を受ける拳の骨そのものではありません。骨密度を調べること、骨の太さを調べること、打撃にどれだけ耐えるかを調べることには、それぞれ別の測定が要ります。この研究から受け取れるのは、運動習慣のある対照と比較した腕の骨密度の結果であり、拳を強くする稽古の回数や強さは検討の対象外です。
手の関節症を比べる相手は、どう選ばれているか
手の関節に変化があると、まず打ってきたこととの関係を考えたくなるかもしれません。比較の背景を知る資料として、Eaton(2022)は空手家を対象とせず、米国の変形性関節症の研究に参加した人の手を調べています。もともとは膝の関節症に関する研究の参加者で、手のX線と症状を追った調査です。
Eaton(2022)の参加者 3,588 人のうち、X線上で手の変形性関節症がある人は 41.4%、症状を伴う人は 12.4% でした。観察期間は 4 年で、手のどの関節に所見があるかや、症状があるかという違いを扱っています。著者は、年齢、性別、人種、症状、影響を受ける関節によって異なる複雑な病気として手の関節症を捉えています。
この調査で役立つのは、画像と症状を別に評価している点です。X線で変化を探す方法と、本人の困りごとを確かめる方法では、捉える結果が変わります。前の節のボクサーの質問票と、空手家のX線の報告を眺める際にも、まず測っている項目をそろえて理解することが先になります。痛み、動作、画像のどれに答えた研究かを明確にすると、結論の読み違いを減らせます。
ただし、Eaton(2022)の参加者と空手家では年齢構成や集められ方が違い、打撃歴も評価されていません。この調査の割合を空手家の割合と直接比べて、巻藁で増えたか減ったかを判断することはできません。巻藁の影響を比べる研究を考えるなら、同じ年代で、打つ習慣や過去のけがを把握した人同士を追う設計が求められます。単に関節の変化があるかを見る段階から、その変化に何が関係したかを調べる段階へ進むための条件です。
長く手に負荷をかけた競技では、関節症も見つかる
長い経過を調べた反対方向の材料が、Schöffl(2018)のスポーツクライミングの研究です。空手や打撃の研究ではなく、指で体を支える競技を扱っています。ドイツの若手代表だった 19 人と趣味の登山者 18 人を出発点に、平均 11.3 年追跡し、最終的に計 28 人を調べました。
Schöffl(2018)は、若い時期に高い競技水準で登っていた人の 4 分の 1 に、軽い変形性関節症が見られたと結論しました。手に負荷をかける訓練が長いことは、早期の関節症と結びついていました。指に力をかける競技で同じ人の経過を追ったため、ある時点の画像だけを見る報告とは異なる、時間の経過を含む結果になっています。
この研究では、趣味で登る人も比較相手に含まれます。競技をするかしないかだけでなく、若い頃にどの水準で取り組んでいたかを見ていることが特徴です。指でぶら下がる力と拳に当たる衝撃では、関節も力の向きも異なりますが、長期観察で悪い変化を捉えた報告として、空手の古い画像研究と並べる意味があります。
Hanna(2015)は、空手に限定せず格闘技全般の手のけがに関する文献を検討しました。その時点では、競技の動作と直接関わる手のけがについて、発生の多さや重さを確かに比較できる研究が不足していると述べています。検討の範囲は刊行当時までの文献なので、その後の調査を含む評価とは時点が違います。けがの記録、機能、画像、長期追跡のどれを補うべきかという問いを残す論文として位置づけられます。
各研究の対象と、手について得られた結果
ここまでの研究を、対象と比べた相手に沿って並べます。良い所見だけを拾うと、骨折の跡や特定のけが、長期追跡で見つかった関節症が消えてしまいます。表では測った場所も示し、どの結果が拳や手の関節に直接関わるかを追える形にしました。
| 研究 | 対象 | 比べた相手 | 手に関する結果 |
|---|---|---|---|
| Crosby(1985) | 空手歴 5 年以上の指導者 22 人 | なし | 骨折の跡が計 10 件。早期の関節症・慢性腱鞘炎を招く証拠は得られず |
| Larose(1969) | 手の鍛錬を続ける少人数の空手家 | なし | X線で軟部の石灰化や中手骨頭の損傷は見つからず |
| Loosemore(2017) | 英国代表のアマチュアボクサー | 同じ選手団の練習と試合 | 手の根元の不安定さと指の付け根のけがが目立ち、試合中に多い |
| Giannatos(2022) | 男性ボクサー 62 人 | 非ボクサー男性 75 人 | 手首の機能の点数は同程度。親指のけがとボクサーズナックルは多い |
| Bolam(2016) | 男性アマチュアボクサー 30 人 | 運動習慣のある男性 32 人 | 手そのものではなく前腕・腕の骨密度を測り、有意差なし |
| Eaton(2022) | 米国の関節症研究の参加者 | 年齢・性別・症状・関節の違い | 画像上の関節症と症状を伴う関節症を区別して評価 |
| Schöffl(2018) | 若手代表だった登山者 | 趣味の登山者 | 若い時期に高水準で登った人の 4 分の 1 に軽い関節症 |
| Hanna(2015) | 格闘技全般の手のけがの文献 | なし | 発生頻度と重症度を確かに比較できる研究が不足 |
稽古の量と、続く症状を相談の材料にする
拳の見た目だけでなく、痛みや腫れ、握りにくさ、関節の動かしにくさが続いているかを、相談の材料にします。症状が続く場合は、整形外科や手を専門に診る医師に経緯を伝え、評価を受ける形が適切です。巻藁を打っていることに加え、気になる場所と、どの動作で困るかを伝えると、本人が相談したい内容が明確になります。
稽古の量については、指導者に増やし方を尋ねます。最初の量をどう決めるのか、量を増やすときに手の状態をどう確かめるのかという聞き方なら、今行っている稽古の説明につながります。研究の数字をそのまま回数の指示に置き換えるより、本人の症状と稽古の実態を相談先へ伝えることに役立てられます。
手を使う機能、けがの経験、画像の変化は、調査によって別々に捉えられていました。自分の困りごとを相談するときも、見た目が変わったという話と、握ると痛いという話をそれぞれ伝えると、医師に確かめてほしい点が整理されます。稽古を続けるか、打つ量をどう扱うかは、症状の評価を受けて医師と指導者に相談する事項です。大人の初心者は指導者に量の増やし方を聞き、医療機関への相談では続く痛みや動かしにくさを伝えて、今の手の状態を確かめます。
よくある質問
拳ダコが大きいほど、骨も丈夫になっているのか
皮膚の硬い部分の大きさと、骨密度や関節の状態との関係は、ここで取り上げた研究の測定項目に入っていません。Bolam(2016)が調べたのはボクサーの前腕と腕の骨密度で、拳の骨を対象にした測定とも場所が違います。見た目から内側の強さを決めるのではなく、皮膚、骨、関節のどこを測った結果かを見ていくと、研究が答えた範囲を捉えやすくなります。
手の機能に差がなければ、けがも少ないのか
Giannatos(2022)では、手首の機能の点数が同程度でも、親指のけがやボクサーズナックルはボクサーに多く見られました。本人が答える使いにくさと、特定のけがの経験は別の調査項目です。日常の動作についての点数と、競技でどの部分を痛めたかという結果を一緒に読むことで、機能が保たれた面と負傷が多かった面の両方を捉えられます。
巻藁の後に握りにくさが続く場合は、誰に相談するのか
整形外科や手の専門医に、巻藁を打っていることと、握りにくさが続く経緯を伝えて相談します。痛みや腫れ、関節の動かしにくさもあれば、同じ相談の中で伝える内容になります。指導者には今の稽古の量と増やし方を確かめ、医学的な評価と稽古の内容をつなげて相談できるようにします。研究に参加した空手家の所見よりも、本人が今困っている動作を診てもらうことが先になります。
この記事の限界
比較の条件は研究ごとに異なり、空手家の画像、ボクサーの質問票、登山者の追跡で捉える負担も結果もそろっていません。空手の報告は鍛錬を続けられた人を中心としており、痛めて離れた人まで含む変化の頻度には対象者の偏りが残ります。ボクシングの機能の調査も若い男性に限られ、年を重ねた空手家の関節の経過は別に追う課題です。
何十年も続けた人を、打つ量や過去のけがとともに追い、巻藁を使わない人と比べた長期資料は乏しいままです。拳ダコの変化、画像上の関節の変化、本人の痛みを一緒に追った結果が乏しく、皮膚の見た目から長年の巻藁の影響を読み取る根拠は得られていません。
参考文献
- Crosby AC. The hands of karate experts. Clinical and radiological findings. Br J Sports Med. 1985;19(1):41-42.
- Larose JH. Karate Hand-conditioning. Med Sci Sports Exerc. 1969;1(2):95-98.
- Loosemore M. Hand and Wrist Injuries in Elite Boxing: A Longitudinal Prospective Study (2005-2012) of the Great Britain Olympic Boxing Squad. Hand (N Y). 2017;12(2):181-187.
- Giannatos V. Functional performance of the upper limb and the most common boxing-related injuries in male boxers: a retrospective, observational, comparative study with non-boxing population. BMC Sports Sci Med Rehabil. 2022;14(1):162.
- Bolam KA. A Comparison of Bone Mineral Density in Amateur Male Boxers and Active Non-boxers. Int J Sports Med. 2016;37(9):694-699.
- Eaton CB. Prevalence, Incidence, and Progression of Radiographic and Symptomatic Hand Osteoarthritis: The Osteoarthritis Initiative. Arthritis Rheumatol. 2022;74(6):992-1000.
- Schöffl VR. Long-Term Radiographic Adaptations to Stress of High-Level and Recreational Rock Climbing in Former Adolescent Athletes: An 11-Year Prospective Longitudinal Study. Orthop J Sports Med. 2018;6(9):2325967118792847.
- Hanna WA. [Hand injuries from combat sports]. Unfallchirurg. 2015;118(6):507-514.
技の名前を調べた次は、組手の痛みと礼儀を稽古場で確かめる
- 向く人: 技の名前や由来を知ったうえで、型と組手で実際に体を動かしたい大人
- 向く人: けがの防ぎ方と礼儀の教え方を見てから、子どもに空手を習わせたい保護者
- 向かない人: 相手を倒す技だけを早く覚えたい人
- 向かない人: 医師から打撃や接触のある運動を止められている人
このサイトはワールド極真会空手連盟 東京支部が制作しています。稽古場はオンザショア立川店(立川駅から徒歩1分・溶岩プレートの床のスタジオ)です。
よくある質問
拳ダコが大きいほど、骨も丈夫になっているのか
皮膚の硬い部分の大きさと、骨密度や関節の状態との関係は、ここで取り上げた研究の測定項目に入っていません。Bolam(2016)が調べたのはボクサーの前腕と腕の骨密度で、拳の骨を対象にした測定とも場所が違います。見た目から内側の強さを決めるのではなく、皮膚、骨、関節のどこを測った結果かを見ていくと、研究が答えた範囲を捉えやすくなります。
手の機能に差がなければ、けがも少ないのか
Giannatos(2022)では、手首の機能の点数が同程度でも、親指のけがやボクサーズナックルはボクサーに多く見られました。本人が答える使いにくさと、特定のけがの経験は別の調査項目です。日常の動作についての点数と、競技でどの部分を痛めたかという結果を一緒に読むことで、機能が保たれた面と負傷が多かった面の両方を捉えられます。
巻藁の後に握りにくさが続く場合は、誰に相談するのか
整形外科や手の専門医に、巻藁を打っていることと、握りにくさが続く経緯を伝えて相談します。痛みや腫れ、関節の動かしにくさもあれば、同じ相談の中で伝える内容になります。指導者には今の稽古の量と増やし方を確かめ、医学的な評価と稽古の内容をつなげて相談できるようにします。研究に参加した空手家の所見よりも、本人が今困っている動作を診てもらうことが先になります。