ワールド極真会空手連盟 東京支部立川駅北口の稽古場と、空手を始める前に読む資料室

公開:2026年10月17日/最終更新:2026年11月5日

組手で頭を打たれ続ける大人|繰り返す衝撃と長期の脳の研究

頭への衝撃を繰り返し受ける機会が多いプロ格闘家ほど、脳の一部が小さく、情報を処理する速さも低いという関連を Bernick(2015)は報告しました。夜、稽古を振り返りながら、組手で重ねる打撃が将来の記憶や判断に響くのかと気になることもあります。プロ格闘家には長期の変化を懸念させる結果がありますが、試合数や練習回数だけから個人の将来や安全な上限を決めることはできません。

この記事の要点
  • Bernick(2015)は、米国のプロ格闘家 224 人と対照の 22 人に認知テストと MRI を行いました。
  • Stephen(2020)は、プロの武道家 40 人、ボクサー 188 人、総合格闘家 279 人を比較しました。
  • Zhuang(2022)は、試合とスパーリングをやめた男性 45 人と、競技を続ける男性 45 人を追跡して比較しました。
  • パンチドランカーという呼び方から、もの忘れや動作の変化を心配する人もいるかもしれません。

組手で頭を打たれ続ける大人|繰り返す衝撃と長期の脳の研究

頭への衝撃を繰り返し受ける機会が多いプロ格闘家ほど、脳の一部が小さく、情報を処理する速さも低いという関連を Bernick(2015)は報告しました。夜、稽古を振り返りながら、組手で重ねる打撃が将来の記憶や判断に響くのかと気になることもあります。プロ格闘家には長期の変化を懸念させる結果がありますが、試合数や練習回数だけから個人の将来や安全な上限を決めることはできません。

今回の研究群には空手だけを長く追った調査はなく、中心はプロの総合格闘家とボクサーです。武道家を独立した群として比較した Stephen(2020)もありますが、その群の流派の内訳は明らかでなく、趣味で空手を続ける大人とは競技環境が異なります。調べたものも、試合歴、画像で測る脳の大きさ、認知テスト、死後の脳組織と幅があります。

一方で、競技をやめた後に認知機能が改善した報告や、練習回数と脳容積の減少が結びつかなかった報告もあります。悪い方向の結果だけを拾わず、誰を何と比べた研究なのかをたどると、頭への接触について指導者や医療機関に伝える材料が見えてきます。

試合数や競技年数と脳の変化には関連がある

Bernick(2015)は、米国のプロ格闘家 224 人と対照の 22 人に認知テストと MRI を行いました。MRI は体の内部を画像で調べる検査で、ここでは脳の領域ごとの大きさを測っています。格闘家の内訳は総合格闘家 131 人、ボクサー 93 人で、試合数や競技年数が多いほど、脳の内部にある視床などの容積が小さく、処理速度が低いという関係がありました。

処理速度は、情報を受け取って課題を進める速さに関わる認知機能です。この研究では試合歴と画像、テストの成績を対応させ、競技経験の多さに沿って違いが出るかを調べています。経験年数が長い選手の成績や画像を、経験が短い選手と並べた点が特徴です。

ただし Bernick(2015)の解析は、研究開始時点で参加者どうしを比べる横断研究でした。試合歴には本人の申告と公的な記録を使っており、頭に当たった打撃をすべて直接数えたわけではなく、対照群も小規模です。その後の Bernick(2020)では、同じ人の脳を繰り返し測ることで、時間とともに起きる変化へと調査を進めました。

Bernick(2020)の解析対象は、少なくとも 2 回の評価を受けた 204 人です。年ごとの脳容積の変化を対照と比べると、現役と引退後のボクサーでは、減少の目立つ領域に違いがありました。著者は、衝撃を受けてきた人の脳では、時期によって異なる変化が進んでいる可能性を挙げています。

この追跡では、異なる人の比較から、同じ人の変化へと観察の焦点が移っています。一方、参加者は自ら研究に参加した格闘家であり、画像の変化と日常で感じる不調との対応は、さらに調べる課題です。脳容積という測定値と、本人の暮らしの中で起きる変化の両方を追うことが、長期の影響を理解するうえで重要になります。

競技の違いとプロ・アマの違いを調べた結果

Stephen(2020)は、プロの武道家 40 人、ボクサー 188 人、総合格闘家 279 人を比較しました。脳の領域ごとの容積と短い認知テストを使った、研究開始時点の予備的な検討です。武道家と総合格闘家は、ボクサーより脳容積が大きく、認知テストの得点も高い方向でそろっていました。

競技の種類によって、繰り返す頭部衝撃の受け方に違いがある可能性を、Stephen(2020)は指摘しています。ただ、この調査では打たれた量そのものを測っておらず、武道家の群は他の群より小規模でした。競技名で群を作った比較なので、技術、練習内容、頭部への接触といった要素を個別に取り出した結果とは区別されます。

Ramada(2026)は男性選手 63 人を、打撃を伴う競技のプロ、同じくアマチュア、頭部への打撃が少ない組み技系の対照に分け、各群 21 人を比較しました。打撃系にはボクシング、キックボクシング、総合格闘技、対照には柔道、レスリング、柔術が含まれます。平均年齢は 25.56 歳で、年齢のばらつきを示す標準偏差は 5.46 歳でした。

Ramada(2026)では、プロの打撃系選手は対照より処理速度と言葉の記憶が低い結果でした。一方、打撃系のプロとアマチュアの間には、統計的にはっきりした認知機能の差がありませんでした。著者は競技水準だけよりも、頭への反復衝撃との関連を重く見ています。

ここで比べている軸は、競技の種類と競技水準です。Stephen(2020)はプロの中で競技を比較し、Ramada(2026)はプロとアマチュアを含めて比較しているため、同じ問いを同じ構成で繰り返した研究とは異なります。いずれも測定時点での違いを捉えた調査で、参加者の競技開始前からの変化を追ったものではない点が共通しています。

試合とスパーリングをやめた後には改善の報告もある

Zhuang(2022)は、試合とスパーリングをやめた男性 45 人と、競技を続ける男性 45 人を追跡して比較しました。中心はボクシングと総合格闘技で、武道家も各群に 1 人ずつ含まれます。最初の評価時の平均年齢は、やめた群が 31.69 歳、続けた群が 30.24 歳で、年齢などの基本的な属性を合わせて比べています。

Zhuang(2022)で競技をやめた群は、その後の認知機能が改善する方向を示し、血液中の神経線維に関わるたんぱく質の指標も低下しました。続けた群では認知成績が低下し、血液の指標は安定していました。脳の厚さの測定も踏まえ、著者は反復衝撃を受けなくなった後に、認知機能や脳の厚さが安定する可能性を述べています。

この報告は、悪い変化が積み重なるという見方だけでは捉えきれない経過を示します。認知テスト、脳の構造、血液の指標を追うことで、競技を続ける間と離れた後の変化を調べているのが特徴です。画像の測定だけでなく、認知課題の成績も改善する方向だったことが、この研究を読む際の大切な点です。

一方、Zhuang(2022)では、競技をやめるか続けるかを無作為に割り当てていません。本人が競技から離れた理由や、その前後の状況が、結果に関係した可能性があります。比較する相手の属性を合わせても、競技をやめるという選択に伴う違いは残ります。

また、競技をやめる前後の変化と、競技を始める前の状態まで戻ることとは、比較の出発点が異なります。この研究が扱うのは主に若い成人の経過で、長年競技を続けて高齢になってからの変化は別の課題です。稽古内容や頭部接触の見直しを相談するときには、回復方向の報告があることと、その対象や比較方法を一緒に押さえておくと、期待する変化を過大にせずに話し合えます。

パンチドランカーと慢性外傷性脳症をめぐる議論

パンチドランカーという呼び方から、もの忘れや動作の変化を心配する人もいるかもしれません。研究で扱われる慢性外傷性脳症は、頭への反復衝撃との関係が論じられている脳の病理学的な状態です。病理学的な診断とは、脳の組織にどのような変化があるかを調べて行う診断を指します。

McKee(2023)は、ボクサーやアメリカンフットボール選手などの死後の脳の報告を論じ、反復衝撃との因果関係を強く支持する立場を示しています。同論文によると、発表された慢性外傷性脳症の症例のうち 97% 超に、頭への反復衝撃を受けた既知の経歴がありました。報告の土台となるのは、死後に脳を提供した人たちの組織を調べた結果です。

McKee(2023)は、慢性外傷性脳症を確定診断できるのは、現時点では死後の脳組織の検査に限られると述べています。本人がもの忘れや気分の変化を感じたというだけで、病名を自分に当てはめる方法は示されていません。症状を把握することと、特定の脳の病理を確定することには、それぞれ異なる診察や検査の役割があります。

これに対し、Fortington(2025)は、人の集団で病気と要因の関係を調べる疫学の原則から、因果の主張を検討しました。検討対象は先行する総説であり、McKee(2023)を直接検証した実験ではありません。頭への衝撃の量や病気の定義、測定方法が定まっていないことを挙げ、示された証拠から因果を断定するのは早いと論じています。

両者の論点は、症例に衝撃歴があるという観察を、どの程度まで原因の説明として扱えるかにあります。死後の脳を提供する人の偏りや、衝撃をどう数えるかが、議論の中心に置かれています。Fortington(2025)は新たに選手の脳を測った報告ではなく、既存の証拠から導く結論の強さを問い直す論文として位置づけられます。

スパーリング回数と脳容積が結びつかなかった研究

Esagoff(2023)は、現役のプロ総合格闘家 94 人について、週あたりのスパーリングのラウンド数と脳容積の関係を調べました。ラウンドは練習を区切る単位で、試合の通算数とは異なる測り方です。調べた脳領域のいずれでも、週のラウンド数が多いほど容積が小さいという有意な関係は見つからず、尾状核という脳内部の領域はむしろ大きい方向に関連しました。

Esagoff(2023)の結果は、回数が多ければどの測定でも悪い結果になるという説明に合いません。ただし、横断的な比較で、強く打たれる量を測っておらず、もともとの脳の違いも除けない設計でした。練習量を表す回数と、頭が実際に受けた衝撃の強さを区別して測る課題が残っています。

Bernick(2015)が使った試合数や年数と、Esagoff(2023)が使った週のラウンド数は、競技歴の別々の面を表しています。前者は積み重ねてきた競技経験、後者は週単位の練習の多さに着目しています。数字が何を記録したものかを押さえると、結果が異なる理由を考える入口になります。

以下では、悪い方向の関連、改善の方向、関連が出なかった結果を、各研究の比較相手とともに並べます。脳を直接測った調査と、既存の報告について論じた論文は設計の列で区別しています。

研究 対象 比べた相手 設計 結果の向き
Bernick(2015) プロ格闘家 224 人 対照 22 人、試合歴の異なる選手 開始時点の横断比較 試合数・年数が多いほど脳容積が小さく処理速度が低い
Bernick(2020) 複数回評価した 204 人 対照、現役と引退後の選手 脳容積の追跡 現役・引退後で容積減少の目立つ領域が異なる
Stephen(2020) 武道家 40 人、ボクサー 188 人、総合格闘家 279 人 プロの競技群どうし 予備的な横断比較 武道家・総合格闘家はボクサーより容積・認知成績が高い
Ramada(2026) 男性選手 63 人 打撃系のプロ・アマと組み技系の対照 横断比較 プロは対照より処理速度・言葉の記憶が低い。プロ・アマ間は有意差なし
Zhuang(2022) 競技をやめた男性 45 人 続けた男性 45 人 追跡比較 やめた群は認知機能が改善し血液指標が低下。続けた群は認知成績が低下
McKee(2023) 死後に調べた脳の症例報告 反復衝撃歴との対応を検討 総説 衝撃との因果を強く支持する立場
Fortington(2025) 因果関係を主張した先行文献 疫学の原則に照らした検討 方法論への反論 測定や定義に課題があり、因果の断定を支持しない
Esagoff(2023) 現役プロ総合格闘家 94 人 週の練習ラウンド数が異なる選手 横断比較 多い回数と小さい脳領域は有意に結びつかず、尾状核は大きい方向

頭への接触の決まりと、続く変化を記録する

稽古場で確かめる事柄は、頭への接触の量を指導者がどう決めているか、スパーリングで頭に当てる強さにどんな決まりがあるかです。練習回数だけを聞くより、何を接触として扱い、強さをどう管理しているかまで尋ねると、実際の稽古内容を説明しやすくなります。回数だけでは足りません。研究でも、競技歴の長さと週の練習量では、捉えている内容が異なっていました。

相談のためのメモには、頭への接触がある稽古の内容と、指導者から聞いた量・強さの決まりを残します。実際に頭へ当たった場面を覚えている範囲で添えれば、単に空手をしていると伝えるより、接触の状況を医療機関で説明しやすくなります。記憶にない回数を推定して埋めず、記録できた出来事を残す形で十分です。

もの忘れ、感情の変化、手足の動かしにくさが続く場合は、神経内科などの医療機関に相談します。本人が感じた変化と、家族など周囲が気づいた変化があれば、いつ頃から続いているかとともに伝えます。稽古への参加や頭への接触をどう扱うかは、主治医や相談先に稽古内容を説明したうえで判断を委ねます。

この記録では、病名を推測するより、生活の中で起きた出来事を言葉にすることを優先します。思い出しにくかったこと、気持ちの変化、動作で困った場面などを、そのときの状況に沿って残します。相談に持っていけるように、稽古での接触の決まりと、続いている変化を書き残します。

よくある質問

打たれた回数から将来の認知症を予測できるか

今回の研究から、個人の将来を予測する回数の基準は示されていません。Bernick(2015)の試合数・年数と、Esagoff(2023)の週のラウンド数では測定対象が異なり、打撃の強さをすべて記録した調査でもありません。競技歴と検査結果に関連があったことは懸念の材料になりますが、個人の予測には、衝撃の測定とその後の経過を対応させる研究が求められます。

競技をやめれば脳は元に戻るのか

Zhuang(2022)は、競技をやめた群で認知機能の改善や、脳の厚さが安定する可能性を報告しています。ただ、競技開始前の状態まで戻ったことを示す比較ではなく、やめるかどうかを本人が選んだ研究です。若い成人にみられた改善の方向は大切な結果ですが、稽古の変更後に自分がどんな経過をたどるかについては、主治医や相談先と状態を見ながら考えます。

もの忘れがあれば慢性外傷性脳症なのか

もの忘れだけで、その病名を自分で判断することはできません。McKee(2023)が述べる確定診断は死後の脳組織の検査に基づくもので、日常の症状を当てはめる自己判定とは異なります。もの忘れや感情、動作の変化が続くときは、気になった出来事と稽古内容を医療機関で伝え、症状の評価や稽古の扱いについて相談します。

この記事の限界

適用範囲は主にプロのボクシングと総合格闘技に偏り、武道家を含む比較も、流派や実際の打撃量を細かく区別した調査にはなっていません。横断比較、同じ人の追跡、死後の組織を基にした論考では観察する時点と指標が異なり、脳容積の差、認知成績の変化、病理学的な状態を連続して結びつける部分に課題が残ります。

空手を続けた人の脳を長年追い、頭への接触の強さや累積回数と日常生活の変化を対応させたデータは、この研究群には含まれていません。競技を離れた後の改善も主に若い成人の結果に限られ、一般の大人が年齢を重ねながら空手を続けた先の経過には、まだ答えがありません。

参考文献

  1. Bernick C. Repeated head trauma is associated with smaller thalamic volumes and slower processing speed: the Professional Fighters’ Brain Health Study. Br J Sports Med. 2015;49(15):1007-1011.
  2. Bernick C. Longitudinal change in regional brain volumes with exposure to repetitive head impacts. Neurology. 2020;94(3):e232-e240.
  3. Stephen SJ. The Relationship Between Fighting Style, Cognition, and Regional Brain Volume in Professional Combatants: A Preliminary Examination Using Brief Neurocognitive Measures. J Head Trauma Rehabil. 2020;35(3):E280-E287.
  4. Ramada F. Cognitive impact of repetitive head blows in combat athletes: A cross-sectional comparison. J Sports Sci. 2026;44(19):2651-2663.
  5. Zhuang X. Longitudinal Changes in Cognitive Functioning and Brain Structure in Professional Boxers and Mixed Martial Artists After They Stop Fighting. Neurology. 2022;99(20):e2275-e2284.
  6. McKee AC. Chronic traumatic encephalopathy (CTE): criteria for neuropathological diagnosis and relationship to repetitive head impacts. Acta Neuropathol. 2023;145(4):371-394.
  7. Fortington LV. Epidemiological Principles in Claims of Causality: An Enquiry into Repetitive Head Impacts (RHI) and Chronic Traumatic Encephalopathy (CTE). Sports Med. 2025;55(2):255-274.
  8. Esagoff AI. Sparring and the Brain: The Associations between Sparring and Regional Brain Volumes in Professional Mixed Martial Arts Fighters. Sports Med. 2023;53(8):1641-1649.

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よくある質問

打たれた回数から将来の認知症を予測できるか

今回の研究から、個人の将来を予測する回数の基準は示されていません。Bernick(2015)の試合数・年数と、Esagoff(2023)の週のラウンド数では測定対象が異なり、打撃の強さをすべて記録した調査でもありません。競技歴と検査結果に関連があったことは懸念の材料になりますが、個人の予測には、衝撃の測定とその後の経過を対応させる研究が求められます。

競技をやめれば脳は元に戻るのか

Zhuang(2022)は、競技をやめた群で認知機能の改善や、脳の厚さが安定する可能性を報告しています。ただ、競技開始前の状態まで戻ったことを示す比較ではなく、やめるかどうかを本人が選んだ研究です。若い成人にみられた改善の方向は大切な結果ですが、稽古の変更後に自分がどんな経過をたどるかについては、主治医や相談先と状態を見ながら考えます。

もの忘れがあれば慢性外傷性脳症なのか

もの忘れだけで、その病名を自分で判断することはできません。McKee(2023)が述べる確定診断は死後の脳組織の検査に基づくもので、日常の症状を当てはめる自己判定とは異なります。もの忘れや感情、動作の変化が続くときは、気になった出来事と稽古内容を医療機関で伝え、症状の評価や稽古の扱いについて相談します。