- 筋力トレーニングは、重りや器械などの抵抗に対して力を出す運動です。
- 「その競技の選手は背が高い」「背が低い選手が多い」という観察から、運動が身長を変えたと考えたくなることがあります。
- 成長板は、成長期の骨の端にある、骨が伸びる部分です。
- 筋力トレーニングの実験とは別に、激しい練習を続ける競技者の成長を検討した研究もあります。
稽古で子どもの背は伸びなくなるか|空手の筋力の稽古と成長の研究
空手で拳立てや筋力の稽古を続けると、子どもの背は伸びなくなるのでしょうか。居間で学校の身長の記録を開き、稽古で何をしているのか子どもに尋ねるとき、「筋肉を鍛えると成長を妨げる」という話が気になるかもしれません。監督のある子どもの筋力トレーニング実験では身長の伸びへの悪影響は見られず、筋力を鍛えること自体を理由に背が伸びなくなると考える根拠は乏しいです。
ただし、空手の拳立てを続けた子どもの最終的な身長を直接調べた結論ではなく、一般の筋力トレーニングや体操の研究を手掛かりにした答えです。Malina(2006)がまとめた実験は、指導者の監督があり、子どもに対して指導者が手厚く配置された条件で行われました。身長の伸びと、重りを落とすなどの事故は別に考えます。
読み分けたいのは、短期間の練習中に身長が伸びるか、競技を続けた子どもがどんな成長経過をたどるか、練習中にどんなけがが起きるかです。それぞれを調べた研究を見ながら、稽古の内容と見守る人の役割を具体的に確かめます。
筋力の稽古と身長を調べた実験
筋力トレーニングは、重りや器械などの抵抗に対して力を出す運動です。身長への影響を考えるときには、「重いものを持った」という印象だけでなく、どの時期の子どもが、どんな運動を、どのくらい続けた結果なのかを読み取る必要があります。成長中の子どもを対象にした実験は、練習を始める前後の変化を追うための手掛かりになります。
Malina(2006)は、思春期前から思春期の初めの子どもについて、筋力トレーニングの実験を扱った 22 報を検討しました。主に重りを使う器械や、手で持つ重りを用い、週 2〜3 回、8〜12 週という条件で行われたものです。筋力は伸びましたが、身長と体重の伸びには影響が見られませんでした。
安全性については、けがを系統的に記録していた 10 研究で、報告されたけがは 3 件でした。著者は、監督があり、指導者に対して参加者が少ない実験条件での筋力トレーニングを比較的安全と評価しています。けがが全く起きなかったという結果ではなく、成長の測定とともに、実際にけがを記録する研究も含まれていました。
この実験の特徴は、短い期間に内容を管理して行ったことです。研究中の身長の伸びを比べることと、その子が大人になるまで追い続けることでは、観察する時間が違います。稽古の説明を聞く際には、「筋力の稽古は安全」という言葉だけで済ませず、動きを見る人がいることや、同時に見る子どもの人数にも目を向けます。
運動する子の背の高さは、始める前から違うことがある
「その競技の選手は背が高い」「背が低い選手が多い」という観察から、運動が身長を変えたと考えたくなることがあります。しかし、競技を始める前の体の大きさを調べると、説明が変わります。練習の結果を考えるには、始める前と後の順序も必要です。
Malina(1994)は、日頃よく体を動かす男子とそうでない男子、定期的に競技に取り組む男子の成長記録を比較しました。見たのは到達した身長だけでなく、身長が最も速く伸びる時期と、その伸びる速さです。活発な男子とそうでない男子の間で、これらに差は見られませんでした。
この研究では、女子の体操、水泳、陸上、ボートの選手の身長も検討しています。水泳などの選手は競技を始める前から背が高く、体操の選手は始める前から背が低いという傾向がありました。競技をしている時点での体格差には、始める前の違いが含まれています。
たとえば、背が低い体操選手を見て「練習で伸びなくなった」と読むと、始める前の記録が抜け落ちます。反対に、背が高い水泳選手を見て「泳げば背が伸びる」と読む場合も同じです。競技名と現在の身長だけを並べた比較では、もともとの体格と運動を始めてからの変化が混ざります。
Malina(1994)が用いた資料は、人数や運動量の記録方法がそろった実験ではなく、成長の経過を観察したものです。筋力の稽古を加えた実験とは、比べている条件が違います。家庭で身長の記録を読む際も、友だちとの現在の差だけを見るより、その子の過去からの記録を並べる方が、この研究が扱った「成長の経過」に沿った見方です。
成長板の心配と、子どもを見守る条件
成長板は、成長期の骨の端にある、骨が伸びる部分です。Milone(2013)は、成長板が周囲の骨より弱く、大人の骨には損傷を起こさない力でも、未成熟な骨では成長板を傷める危険があると説明しています。子どもに大人と同じ負荷の考え方を用いない理由は、この体の構造にもあります。
同論文は、スポーツ医学の専門家 500 人への調査と文献の検討によって、成長板がある間は筋力トレーニングを避けるべきかを論じたものです。適切に監督された筋力トレーニングは、急に起きるけがの危険の増加と結びついていないとしています。成長板が弱いという構造上の説明と、実際に監督下の運動で何が起きたかという記録を並べて判断しています。
「骨が伸びる部分に力が加わる」という説明だけで、筋力の稽古をすべて同じ危険と扱うのは粗い分け方です。重りを持ち上げる動作を見てもらう場面と、子どもだけで器具を動かす場面では、管理する内容が違います。研究で良好な結果が得られた条件を検討するときには、運動の名前に加えて監督の実態を確かめます。
稽古について聞く項目としては、誰が動作を見ているか、重りを使うなら持ち運びや片づけまで見ているか、途中で動作が崩れたときに止めてもらえるかが挙げられます。これらは保護者が監督の仕方を具体的に聞くための項目で、体格だけで負荷を決める数式ではありません。大人が自分で行っている運動を、回数だけそろえて子どもに課す理由にもなりません。
身長への不安があって稽古を相談するときには、「筋力を鍛える運動があるか」に続けて、その運動の実施方法まで聞きます。指導者が最初に説明した後の様子も含め、子どもが実際に力を出している間にどんな監督があるかを確認します。
体操の研究が示す、練習量と成長を併せて見る必要
筋力トレーニングの実験とは別に、激しい練習を続ける競技者の成長を検討した研究もあります。Caine(2001)は女子体操選手の成長について文献をまとめ、一流選手や練習への関与が大きい選手で、練習と競技を続ける間に身長の伸びが鈍ることがあると報告しました。練習量を減らした時期や引退後に、伸びが追いつく例も扱っています。
この結果には、練習中と練習を減らした後を追うという、短期の筋力トレーニング実験とは違う視点があります。ある時期に伸びが鈍かったという観察と、大人になった時の身長が低くなったという結論は同じではありません。追いつきが完全かどうかについても、取り上げられた研究の結果はそろっていませんでした。
著者は、体操の練習と成長の不足との因果関係は示されていないとしています。もともと背が低い子が体操を続ける傾向や、食事が足りない可能性もあり、練習だけを切り離して比べた資料ではないためです。競技を続ける子どもの成長には、練習の量とともに、その周囲の生活条件も重なっています。
保護者が成長について相談するなら、身長の記録と一緒に、練習の量が変わった時期や食事の様子を伝える方法があります。食べられていないと感じる状態や、身長の経過への心配がある場合は、小児科で相談してください。体操の研究から食事量や練習量の一律の基準を作るのではなく、その子の記録と生活を診察で検討してもらいます。
器具による事故は、身長の伸びとは別に防ぐ
筋力の稽古を考える際には、長い目で見た成長とは別に、その場で起きる事故にも注意が必要です。Myer(2009)は、米国の救急外来の記録から、重量挙げや筋力トレーニングに関係したけがの患者 4,111 人を調べました。対象は 8〜30 歳で、年代によってけがの種類や起き方を比べています。
8〜13 歳の子どもでは、重りを落としたり、器具ではさんだりする事故が目立ち、骨折の割合が他の年代より高い結果でした。一方で、関節のねんざや筋肉の損傷は、年齢が高い群ほど増えていました。子どもと大人では、同じ「筋力トレーニング中のけが」でも、その中身が違います。
この研究が集めたのは、けがをして救急外来を受診した人の記録です。日常の練習を無事に終えた人を含めて追跡した研究とは対象が異なり、事故の場面や年齢ごとの特徴を読む資料として使います。背の伸びを測る実験と、けがの特徴を調べる記録を区別して並べると、下のようになります。
| 研究(著者 年) | 対象 | 設計 | 身長・成長について | けがについて | 弱さ |
|---|---|---|---|---|---|
| Malina(2006) | 思春期前後の子ども | 筋力トレーニング実験 22 報のレビュー | 実験期間中の身長と体重の伸びに影響なし | 記録した 10 研究で 3 件 | 短期間、手厚い監督 |
| Malina(1994) | 活動量の違う男子、女子競技者 | 成長記録の比較 | 運動の有無で伸びる時期や速さに差なし | 成長経過が主題 | 人数と運動量の記録にばらつき |
| Milone(2013) | 専門家と既存文献 | 調査と文献の検討 | 成長板の構造と長期影響を検討 | 監督下では急なけがの危険増加と結びつかず | 新しい成長の測定はない |
| Caine(2001) | 女子体操選手 | 文献レビュー | 伸びの鈍化と、練習を減らした後の追いつきの例 | 成長経過が主題 | 食事や選抜の影響が重なる |
| Myer(2009) | けがで救急外来を受診した若年者と大人 | 診療記録の年代別比較 | 身長の測定はない | 子どもでは重りなどの事故が目立つ | 受診した患者に限る |